Latest Japanese Reviews

母親と新生児がすぐに、あるいは早期に母子接触を行うことの利点について、どのようなことが知られているか?

5 days 5 hours ago
要点
  • 生後1時間以内に新生児と早期母子接触を行った母親は、1ヵ月後まで完全母乳育児であり、6週間後から6ヵ月後までの期間、母乳のみで育てる可能性が高い。

  • 母親と新生児の早期母子接触は、新生児の体温を安定させ、血糖値を上昇させることで、新生児が胎外の生活に適応するのを助けると考えられる。また、呼吸や心拍数にも効果がある可能性がある。

  • 母子接触を行うことで、胎盤娩出までの時間にほとんど差はない。経腟分娩後の出血量への効果は不明である。

レビューの論点

世界保健機関(WHO)や国連児童基金(ユニセフ)などの世界的な主要な保健団体は、出生直後の新生児は母親の素肌の胸の上で直接抱くべきだと勧告している。新生児は裸で、少なくとも1時間、理想的には最初の授乳が終わるまで、中断することなく母親の素肌の素肌の上で抱かれるべきである。これを早期母子接触という。しかし、多くの医療現場では、新生児を母親から離したり、タオルで包んだり、服を着せたり、ベビーベッドやインファントウォーマーの下に寝かせたりするのが一般的である。低所得国や低中所得国では、早期母子接触は一般的ではない。これは母親の母乳育児を成功に導く実践であり、早期母子接触の実施割合が低いことが、母乳育児の実践状況が国により異なる理由の一つかもしれない。

知りたかったこと

出生直後の早期母子接触が、母乳育児の期間や完全母乳育児、そして新生児の胎外生活への移行にどのような影響を与えるかについて検討したい考えた。特に、早期母子接触が標準的なケアよりも以下のアウトカムについて改善する効果があるかどうかを知りたかった:

  • 完全母乳育児;

  • 児の体温;

  • 児の血糖値;

  • 児の呼吸数と心拍数;

  • 胎盤娩出までの時間;

  • 経膣分娩後の母体出血

実施したこと

主要なデータベースにて、出生直後(出生後10分未満に開始)の早期母子接触および早期(出生後10分~24時間の間)の母子接触に関するランダム化研究を検索した。ランダム化比較試験では、研究参加者を無作為に2つ以上のグループに分け、そのグループが類似していることを確認した。結果を要約し、研究規模や方法などの要因に基づいて、その結果に対する信頼性を評価した。

わかったこと

7,290組の母子を対象とした69の研究を特定した。ほとんどの研究では、健康な正期産児を出産した母親を対象に、出生直後(出生後10分未満に開始)の早期母子接触と標準的な病院でのケアを比較していた。15件の研究では、母親は帝王切開で出産し、10の研究では、新生児は健康であったが早産(妊娠34週から37週以前)であった。32件の研究が高所得国で、25件の研究が高中所得国だった。12件の研究がインド、ネパール、パキスタン、ベトナム、ザンビアを含む低中所得国で実施された。低所得国で実施された研究はなかった。

主な結果

出生直後に早期母子接触を行った母親は、退院時および出生後1ヵ月までに完全母乳育児(12件の研究、1,556組の母子)であることや、出生後6週間から6ヵ月まで(11件の研究、1135組の母子)母乳のみで育てる可能性が高い。

出生直後に早期母子接触を行った新生児は、出生後30分から2.5時間で体温が高くなる可能性があるが、その差は臨床的に意味のあるものではない(11件の研究、1,349人の新生児)。早期母子接触は、児の血糖値を上昇させ(3件の研究、144人の新生児)、呼吸と心拍数を改善する(2件の研究、81人の新生児)可能性がある。早期母子接触は、胎盤娩出までの時間(4件の研究、450人)や経膣分娩後の母体出血(2件の研究、143人)には、ほとんど効果はないかもしれないが、それらの母体出血に関する結果は非常に不確実である。

エビデンスの限界は?

多くの結果については、中等度のエビデンスの確実性であり、呼吸と心拍数、胎盤娩出までの時間についてはほぼ確実性がなく、母体出血については確実ではない。早期母子接触、母乳育児、その他の介入、標準的なケアに関する記述や定義は、研究間で一貫していなかった。さらに、母親とスタッフは、どの母親が早期母子接触を受けているかが分かっており、結果に影響した可能性もある。最後に、多くの研究は小規模で、参加した母親と新生児は100人未満であった。

エビデンスの更新状況

本レビューは、前回のレビューを更新したものである。2025年3月7日時点のエビデンスである。

Moore ER, Brimdyr K, Blair A, Jonas W, Lilliesköld S, Svensson K, Ahmed AH, Bastarache LR, Crenshaw JT, Giugliani ER J, Grady JE, Zakarija-Grkovic I, Haider R, Hill RR, Kagawa MN, Mbalinda SN, Stevens J, Takahashi Y, Cadwell K

軽症高血圧に対する薬物療法の有益性と有害性は何か?

1 week ago
要点
  • 心血管疾患(心筋梗塞など)やその他の関連リスク(糖尿病など)を有さない軽症高血圧患者において、降圧薬は死亡リスクや主要な心血管(心臓や血管)疾患のリスクを低減しない可能性がある。

  • 降圧薬は脳卒中のリスクを低減する可能性があるが、一方で試験からの途中離脱につながる有害事象のリスクを増加させる可能性がある。

  • 軽症高血圧はあるが心血管疾患や糖尿病などのその他の健康関連リスクを有さない人々における降圧薬の効果を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

高血圧とは何か?

高血圧とは、持続的に血圧が高い状態を指す。

高血圧はどのように治療されているか?

高血圧の治療は、その重症度および併存疾患によって異なるが、生活習慣の改善(食事の改善や定期的な身体活動など)が基本であり、薬物療法も一般的に行われる。

知りたかったことは何か?

軽症高血圧(収縮期血圧140〜159mmHg、拡張期血圧90〜99mmHg)で、主要な心血管疾患やその他の関連リスクを有さない人における降圧薬の利益とリスクを明らかにすることを目的とした。

何を行ったのか?

軽症高血圧患者における降圧薬の有効性を検討した研究を系統的に検索し、死亡および主要な心血管疾患(脳卒中や心筋梗塞など)のリスクが低減するかについて検討を行った。また、有害事象のリスクについても評価を行った。研究結果を比較、要約し、研究の方法や規模などの要因に基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。

何を見つけたのか?

合計9,124人の参加者を対象とした5件の研究が含まれた(降圧薬群4,593例、プラセボまたは無治療群4,531例)。結果として、降圧薬は死亡や主要な心血管疾患のリスクを低減しない可能性が示された。降圧薬は脳卒中のリスクを低減する可能性があるが、一方で試験からの途中離脱につながる有害事象のリスクを増加させる可能性がある。

主な結果

軽症高血圧で、他の心疾患や心血管疾患リスクを増大させる併存疾患を有さない参加者おける降圧薬の使用は、脳卒中のリスク低下という利益と、有害事象の発生という不利益を天秤にかけて考慮する必要がある。

エビデンスの限界は何か?

対象としたい集団全体を十分にカバーしていないこと、各研究の規模や数が小さいことから、本結果の確実性に限界がある。脳卒中リスクの低下を示した1件の研究では腎疾患患者を対象としていたため、軽症高血圧患者全体に適用できるかは不明である。降圧薬の有害事象に関して報告されていたのは1件の研究のみであった。

本エビデンスはいつのものか?

2024年6月現在におけるエビデンスである。

Wang D, Wright JM, Adams SP, Cundiff DK, Gueyffier F, Grenet G, Ambasta A

小児のクローン病の治療に腫瘍壊死因子α阻害薬を用いると、どのような利益とリスクがあるか

1 week ago
要点

インフリキシマブを用いると、臨床的寛解(目立った症状がなくなること)および内視鏡的寛解(大腸の検査で炎症が認められなくなること)に向かう可能性が従来の治療薬と比べて僅かに高くなるかもしれない。

クローン病を患う小児において寛解を目指す療法として腫瘍壊死因子α阻害薬(抗TNF製剤)の使用を支持する限定的なエビデンス(科学的根拠)がある。

抗TNF製剤と他の治療薬を比較し、同製剤に関して、投与するタイミング、用量、その他の詳細な情報を調べるために、適切なデザインに基づくより多くの研究が必要である。

小児のクローン病にはどのような治療法があるか

小児のクローン病の初期治療の選択肢としては、ステロイド剤、経腸栄養剤(必要な栄養を含む特別な流動食)、免疫調整薬(免疫系の活動を変える物質)また場合によっては抗TNF製剤のような生物製剤(生物から作られる薬剤)がある。

小児のクローン病は重症化しやすく、炎症が広がることもあるため、抗TNF製剤を使用することが多い。

何を調べようとしたのか?

調べたかったことは、小児クローン病の寛解導入療法に用いられる抗TNF製剤が安全で有効かどうかである。寛解導入療法とは初期段階で炎症とそれに伴う諸症状を抑え、寛解(病気の症状が軽減または完全に消失した状態)に向かわせるために用いられる投薬治療を指す。

実施したこと

クローン病を患う小児を対象として、寛解導入療法に用いる抗TNF製剤を従来の治療(ステロイド剤または経腸栄養療法)、プラセボ(疑似薬)、または無治療と比較して調べた研究を探した。研究の結果をまとめ、研究方法や規模などの要素に基づいてエビデンス(科学的根拠)の信頼性を評価した。

わかったこと

見つかった研究は1件のみで、クローン病の第一選択薬(病気を管理する上で最初に使う薬)としてインフリキシマブ(抗TNF製剤)による治療を受けた(50人)、または従来の治療法(ステロイド剤[経口プレドニゾロン]または完全経腸栄養療法)を処方された(50人)3~17歳の小児合計100人を対象としたものである。この研究は欧州の3ヵ国で実施された。対象となった小児は一年間追跡調査を受けた。

その結果、インフリキシマブを用いると、臨床的寛解(目立った症状がなくなること)と内視鏡的寛解(大腸検査で炎症が見られなくなること)に向かう可能性が従来の治療法より僅かに高くなるかもしれないことが示された。本レビューに含められたこの研究では、クローン病に関連したいかなる原因による併存疾患や死亡についても、重いまたは軽い副作用についても調査していない。

エビデンスの限界は何か?

研究に参加した人はどの治療を受けていたか知っていた可能性があること、レビューの対象に含められた研究が小規模であること、また結果について確信を得るのに十分な数の研究がないことから、エビデンスの信頼性は非常に低い。

活動期クローン病(クローン病の症状が出ている)の小児を対象に抗TNF製剤による治療の利益と害を従来型の治療と比較して調査する、より規模の大きい研究が複数必要である。こうした研究には、重要な評価項目として、併存疾患、死亡例、重い副作用を含めるべきである。

本レビューの更新状況

エビデンスは、2024年6月現在のものである。

Sepúlveda A, de la Piedra Bustamante MJ, Orlanski-Meyer E, Villarroel del Pino LA, Olivares Labbe MT, Gana JC

第1群肺動脈性肺高血圧症の人には、どのような薬を単独または組合せて用いるのが最も適しているか、またこうした薬には重い副作用があるか?

1 week ago
要点
  • 第1群肺動脈性肺高血圧症の人には、エンドセリン受容体拮抗薬の単剤療法よりも併用療法の方が臨床増悪(病状が悪化すること)の予防に有効で、入院率も減少する可能性が高い。しかし、併用療法がホスホジエステラーゼ5阻害薬の単剤療法よりも臨床増悪や入院を予防する上で利益が大きいかどうかは不確かである。

  • いずれかの薬の単剤療法と比べて、併用療法を受けている人の身体作業を行う能力が改善されたり、死亡率が低下するという強力なエビデンスもない。

  • 併用療法を受けている人も一方の薬のみを使用している人も、同様の重い副作用が見られ、治療を中断する傾向も大体同じだった。併用療法ではホスホジエステラーゼ5阻害薬の単剤療法と比べて、治療を中断する人の数が僅かに少なかった。

第1群肺動脈性肺高血圧とは何か?

肺高血圧症とは肺の動脈の血圧が高い状態をいう。これは5種類(第1群から第5群まで)に分類され、それぞれ異なる治療方法が必要である。第1群肺動脈性肺高血圧は稀で、肺の他の部分には問題がない肺動脈に特異的な高血圧が含まれる。これは遺伝、薬剤、または他の疾患などの要因により引き起こされる。第1群肺動脈性肺高血圧を放置したり、治療が適切でなかったりすると、生活の質(QOL)が低下し、入院のリスクが上がり、死亡率が高まる可能性がある。

第1群肺動脈性肺高血圧にはどのような治療法があるか

第1群肺動脈性肺高血圧の治療薬は肺の血管の拡張を促す作用があり、その結果として肺動脈の血圧が下がる。エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、プロスタサイクリン類似体と呼ばれる薬は、単剤療法または併用療法で用いることができる。ガイドラインによると、一般的な組合せとして、エンドセリン受容体拮抗薬とホスホジエステラーゼ5阻害薬がある。

何を調べようとしたのか?

第1群肺動脈性肺高血圧の治療において、エンドセリン受容体拮抗薬とホスホジエステラーゼ5阻害薬は、単独または併用でどれだけ効果があるか調べたかった。そして、どれだけの人が病状が悪くなったり(増悪と言われる状況)、入院が必要となったり、死亡したのか知りたかった。また、治療が原因の重い副作用があったかどうかも知りたかった。

実施したこと

第1群肺動脈性肺高血圧症の人を対象に、エンドセリン受容体拮抗薬のみ、ホスホジエステラーゼ5阻害薬のみ、そしてエンドセリン受容体拮抗薬とホスホジエステラーゼ5阻害薬の併用(併用療法)を比較した研究を探した。個々の研究をチェックして、研究方法やサイズなどの要素を考慮しつつ、公正で信頼できるものであるか確認した。

わかったこと

1807人を約16週間にわたって経過観察した研究9件が見つかった。

併用療法ではエンドセリン受容体拮抗薬の単剤療法に比べて病状増悪が少なく、入院のリスクが低下する可能性がある。しかし、併用療法が病気の悪化や入院を防ぐ上でホスホジエステラーゼ5阻害薬の単剤療法より効果が大きいかどうかは不明である。また、エンドセリン受容体拮抗薬またはホスホジエステラーゼ5阻害薬の単剤療法と比べて、併用療法を受けた人の身体作業を行う能力が改善されたり、死亡例が減るという強力なエビデンスはなかった。重い副作用は、併用療法でも単剤療法でも同程度だった。併用療法ではホスホジエステラーゼ5阻害薬による単剤療法と比べて治療を中断する人の数が僅かに少なかった。

エビデンスの限界は何か?

死亡例を報告しなかった研究もあるため、これに関して確信をもって結論を出すのは難しい。併用療法と単剤療法の比較に関しては、いくつかの研究から多くの人が離脱したため、これが結果に影響を与えた可能性がある。こうした側面につき理解を深めるには、より一層の研究が必要かもしれない。

このエビデンスの更新状況

本エビデンスは2024年3月13日現在のものである。

Oba Y, Maduke T, Fakhouri EW, Goite Y

乾癬性関節炎の人に対するTNF阻害薬の利益と有害性は何か?

2 weeks 1 day ago
主要メッセージ

腫瘍壊死因子阻害薬(TNFi)は、炎症を軽減するのに役立つ薬剤群であり、第一選択薬(診断されたら最初に処方される治療薬)である免疫抑制剤(メトトレキサートなど、過剰な免疫反応を抑える薬剤)の治療で効果が得られなかった乾癬性関節炎の人においては、プラセボ(活性成分を含まない薬または「偽」の薬)より効果があるとされる。

TNF阻害薬と第二選択薬(第一選択薬で治療効果不十分な場合に次に使用する薬)の免疫抑制剤を比較する質の高い研究、および第二選択薬の免疫抑制剤治療で効果が得られなかった乾癬性関節炎の人におけるTNFiの効果を評価する研究が必要である。

乾癬性関節炎とは何か?

乾癬性関節炎は、関節に炎症が起こる慢性的(長期にわたる治療、症状コントロール等が必要)な炎症性疾患で、乾癬という炎症性の皮膚疾患がある人の約3分の1にみられる。乾癬性関節炎の原因は完全には解明されていない。関節内および関節周囲の組織の炎症により関節や腱の痛み、腫れ、こわばりの症状を引き起こす。乾癬性関節炎を治療せずに放置すると(症状が進行し)、身体障害を引き起こし、生活の質を低下させる。

乾癬性関節炎はどのように治療されるのか?

乾癬性関節炎は、理学療法、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)、副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)、および疾患修飾性抗炎症薬 (疾患修飾性抗リウマチ薬、DMARDs) と呼ばれる免疫抑制剤で治療され、医師が最も患者 (体) の負担の少ない治療薬から始め、必要に応じて (効果不十分な場合) 徐々により複雑な治療 (異なる種類の治療薬または生物学的製剤への切り替えを行う) に移行する段階的アプローチ (症状、病変部位、症状の進行度に合わせて薬を選択する) に基づき治療を進めていく。DMARDsは、3つに分類される: csDMARDs(例.メトトレキサート)、bDMARDs(例.TNFi、イキセキズマブ)、tsDMARDs(例.ウパダシチニブ)。

TNFiは腫瘍壊死因子(TNF)という(炎症を引き起こす)体内蛋白質を選択的に阻害する。TNFは、乾癬性関節炎における関節や皮膚の長期的(慢性的)な炎症に深く関わっている。したがって、TNFiでTNFを標的とすると炎症を軽減し、関連する症状が改善する可能性がある。

知りたかったこと

成人の乾癬性関節炎の治療において、TNFiがプラセボ、理学療法、NSAIDs、ステロイド、および他の免疫抑制剤よりも優れているかどうかを調べたかった。特に、臨床症状(関節の腫れや痛みなど)の改善、炎症のコントロール(疾患活動性)、身体機能(日常生活における動作)、健康関連の生活の質、画像検査による障害進行度(X線画像上で確認できる骨や関節の変化や損傷)、重篤な副作用、および副作用による治療中断などに関心があった。

実施したこと

TNFi をプラセボまたは他の乾癬性関節炎の治療薬と比較した研究を検索した。研究は以下の研究対象者集団に基づいて分類した: 免疫抑制剤による治療を受けたことがない参加者、csDMARDsによる治療で効果不十分であった参加者、bDMARDsまたはtsDMARDsによる治療で効果不十分であった参加者。

わかったこと

乾癬性関節炎のある7857人の参加者を対象とした25件の研究が見つかった。最も大規模な研究では成人1282人、最も小規模な研究では成人47人が含まれていた。研究は、ヨーロッパ、北米、アジア、オーストラリア、南アフリカ、南米で実施された。ほとんどの研究が、csDMARDsによる治療で効果不十分であった参加者を対象としていた。

プラセボと比較した場合:

1000人あたりでみると359人多く(プラセボ群との差)の参加者が、治療開始後12週目の時点でTNFi治療による臨床的な改善を報告した

• 1000人あたり436人がTNFi治療による臨床的改善を報告した。
• 1000人あたり77人がプラセボ治療による臨床的改善を報告した。

1000人あたりでみると258人多くの参加者が、試験開始後24週目の時点でTNFi治療により症状のコントロールが良好であった

• 1000人あたり351人がTNFi治療で症状のコントロールが良好であった。
• 1000人あたり93人がプラセボ治療で症状のコントロールが良好であった。

試験開始後24週目の時点で身体機能を0から3段階(0が機能障害なし)で測定したところ、TNFi群で0.33ポイント高かった

• TNFi群では身体機能が0.47ポイント改善した。
• プラセボ群では身体機能が0.14ポイント改善した。

試験開始後24週目の時点で生活の質を0から100までのスケール(100が最高スコア)で測定したところ、TNFi群で生活の質が3.29ポイント高かった

• TNFi 群では生活の質が5.7ポイント改善した。
• プラセボ群では生活の質が2.4ポイント改善した。

試験開始後24週目の時点で放射線画像 (X線写真など) 上で確認できる損傷度を0から528までのスケール (0が最高スコア、画像上で損傷なし) で測定したところ、TNFi治療により0.37ポイント改善した

• TNFi 群は放射線画像上で確認できる損傷度が0.12ポイント改善した。
• プラセボ群では放射線画像上で確認できる損傷度が0.25ポイント悪化した。

TNFi治療はプラセボ治療と比較して重篤な副作用を経験した参加者の数に差はなかった

• TNFi およびプラセボの両群で、1000人あたり31人が副作用を経験した。

TNFi治療では、1000人あたりでみると10人多い参加者が副作用により治療を中断した

• 1000人あたり28人がTNFi治療を中止した。
• 1000人あたり18人がプラセボ治療を中止した。

免疫抑制剤による治療を受けたことがない参加者では、TNFiはメトトレキサートと比較して、大きな臨床的改善、より良好な疾患症状のコントロールができた可能性があるが、身体機能に差はなく、放射線画像上で確認できる損傷度をわずかに減少させただけだった。健康関連の生活の質への影響を調査した研究はなかった。TNFiとメトトレキサートの間に有害性の差があるかどうかは不明である。

エビデンスの限界は?

いくつかの研究では、研究がどのように実施されたか、医療従事者(臨床研究担当医師、臨床研究に関わった人)または参加者がどの治療を受けていたかを認識していたかどうか(研究が盲検化されていたかどうか)が明確に報告されておらず、結果の妥当性に影響を与えた(結果に潜在的な偏りが生じている)可能性がある。重篤な副作用など、いくつかの結果に関しては、少数の事象発生件数報告に基づくエビデンスである。

このレビューはいつのものか?
レビューは2024年3月28日時点のものである。

Cagnotto G, Bruschettini M, Stróżyk A, Scirè CA, Compagno M

子宮筋腫(子宮にできる良性の腫瘍)を摘出する手術の前に投与される薬の利点とリスクは?

2 weeks 1 day ago
主な結果

- ゴナドトロピン放出ホルモン類似物質(GnRHa)は、子宮筋腫を治す手術の前に、子宮そのものや子宮筋腫を小さくし、ヘモグロビン(赤血球中にある酸素を運ぶためのタンパク質)の濃度を高めることができるかもしれない薬である。GnRHaを手術の前に投与すると、手術にかかる時間、輸血の必要性、手術中あるいは手術後に起こりうる合併症の軽減も期待できる。

- 手術の前にGnRHaを投与される女性は、ホットフラッシュなどの好ましくない副作用がおこる可能性が高くなる。

- 今後も、さらなる研究が必要だ。

子宮筋腫とは?

子宮筋腫は、女性の子宮にできる平滑筋腫瘍(がんではない良性の腫瘍)で、それがあると妊娠しにくくなることがある。お腹が痛くなったり、生理のときに大量に出血したりする。子宮筋腫があると、流産で赤ちゃんを失う可能性が高くなる。

子宮筋腫の治療方法

子宮筋腫は手術によって治療されることが多い。いくつかの薬、特にゴナドトロピン放出ホルモン類似物質(GnRHa)は、子宮や筋腫を小さくして手術を容易にするかもしれない。しかし、骨量が減ってしまう可能性があるため、6ヵ月以上使用することはできない。同じような短期的効果をもたらす可能性のある他の薬物には、黄体ホルモン、ドパミンアゴニスト、選択的プロゲステロン受容体修飾薬(SPRMS)、エストロゲン受容体アンタゴニスト、選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERMS)などがある。しかし、これらの薬は高価な傾向がある。

知りたかったこと

手術の前にこれらの薬を投与するのが、以下の項目について役に立つどうかを調べたかった:

- 大量出血を抑える;

- 子宮や筋腫を小さくして、手術を容易にする;

- 手術にかかる時間、輸血回数、手術中の出血量、手術後の合併症の減少。

また、これらの薬で好ましくない作用を引き起こすものがあるかどうかも調べたかった。

実施したこと

子宮筋腫の手術をする前に投与される薬について、他の薬との比較、あるいはプラセボ(偽の治療)または無治療と比較した研究を探した。研究結果をまとめ、研究方法や規模などの要素に基づいて、エビデンスの信頼性を評価した。

わかったこと

何らかの症状の原因となっている子宮筋腫を摘出する手術を待っている、閉経前の女性3,982人を対象とした41件の研究が見つかった。女性の多くは貧血(赤血球やヘモグロビンの量が少なく、血液の酸素運搬能力に影響する)であった。手術は、子宮摘出術(子宮ごと取り出す)、子宮筋腫核出術(子宮壁から子宮筋腫だけを取り出す)、子宮鏡下子宮筋腫摘出術(子宮腔から子宮筋腫を取り出す)であった。

研究では、3種類の比較試験が行われた:GnRHa対無治療またはプラセボ、GnRHa対他の内科的治療、選択的プロゲステロン受容体修飾薬(SPRM)対プラセボの3種類である。

投与される薬を製造している企業の支援を受けている研究もあった。

主な結果GnRHaと無治療またはプラセボとの比較

ゴナドトロピン放出ホルモン修飾薬(GnRHa)は、手術前に子宮のや子宮筋腫を小さくする可能性がある。手術する前の出血に対する効果については、有益な情報はなかった。GnRHaは、おそらくヘモグロビン濃度を高くする。しかし、GnRHaを投与された女性は、ホットフラッシュを経験しやすい。

子宮摘出術

子宮摘出術にかかる時間は、手術の前にGnRHaを投与された女性の方が短いかもしれない。子宮摘出術を調べた研究では、他の評価項目、すなわち手術中の出血量、輸血、手術後の合併症に対する効果は非常に不確かである。

子宮筋腫核出術

子宮筋腫核出術を調べた研究の次の結果は、非常に不確かである:手術時間、手術中の出血量、輸血、手術後の合併症。

子宮鏡下子宮筋腫摘出術

子宮鏡下切除術の前にGnRHaを投与しても、手術にかかる時間はほとんど変わらないかもしれない。手術後の合併症を調べた研究が1件あったが、報告はなかった。子宮鏡下子宮筋腫摘出術では、手術中の出血量と輸血は調べられていなかった。

GnRHaと他の内科的治療との比較

手術前

GnRHaを手術前に投与すると、他の内科的治療と比べて、手術前の子宮を小さくする可能性がある。GnRHaを投与しても、手術中の出血量や子宮筋腫の大きさにほとんど差がないかもしれない。ヘモグロビン濃度にはおそらく影響しない。しかし、GnRHaは、穂っとフラッシュなどの好ましくない作用をもたらすかもしれない。

選択的プロゲステロン受容体修飾薬(SPRM)とプラセボとの比較(訳者注:2025年9月現在、日本ではSPRMは子宮筋腫の治療薬として承認されていない)

手術前

SPRM(ミフェプリストン、CDB-2914、酢酸ウリプリスタル、アソプリスニルなど)を手術前に投与すると、プラセボに比べて、子宮が小さくなり、ヘモグロビン濃度が高くなる。子宮筋腫が小さくなり、手術中の出血量が減るかもしれない。好ましくない作用に関する結果は、不正確であった。

エビデンスの限界

ほとんどの評価項目に関するエビデンスの信頼性は低いか、非常に低い。これは、研究報告が不十分だったことと、結果を評価する研究者が「盲検化」されていなかったことによる。「盲検化」されていないとは、評価項目を測定した人が、参加者がどの群に割り当てられているかを知っていることを意味し、そのことが結果に影響を与える可能性を否定できない。加えて、結果は研究によってばらつきがあり、1件の研究のみに基づいているものもあった。

本レビューの更新状況

このレビューは2017年に発表されたものを更新したもので、2024年8月までの最新版である。

Puscasiu L, Vollenhoven B, Nagels HE, Melinte I-M, Showell MG, Lethaby A

女性の尿漏れを治すには、どんなトレーニングが最も効果的か?

2 weeks 1 day ago
主な結果

- 尿漏れがある女性に対する骨盤底筋群(膀胱、腸、子宮を支える筋肉)トレーニングの手法には、他のものより優れているものもあれば、同じくらい優れているものもある。

- 多くの手法について確信が持てなかった。なぜなら、その手法を調べた研究が1件しかなかったり、いくつかの小規模な研究しかなかったりしたからである。

- 骨盤底筋群トレーニングのさまざまな手法を直接比べた、より多くの研究が必要である。特に、どんなトレーニングの量(たとえば、トレーニングの回数など)がよいかについて、調べる必要がある。

尿失禁とは何か

骨盤底筋群は、骨盤の前部にある恥骨から骨盤の後部にある尾骨までの間、股の部分にある。ハンモックのような構造で、膀胱、腸、子宮を支えている。骨盤底筋群が弱くなると、女性は排尿をコントロールできず、尿が漏れてしまうことがある。これを尿失禁という。尿失禁には、次の3つのタイプが多い。運動時におこる尿漏れ(腹圧性性尿失禁)、急に尿意を感じてがまんできずにおこる尿漏れ(切迫性尿失禁)、およびその両方(混合性尿失禁)である。このレビューでは、この3つのタイプすべてを取り上げる。尿失禁は、女性の生活の質に深刻な影響を与える。

骨盤底筋群トレーニングとは?

トレーニングによって骨盤底筋群の筋力、持久力、協調性を向上させれば、尿漏れを減らすことができる。トレーニングには、さまざまな手法、または同じ手法でも回数などの負荷量が異なるものが含まれる。トレーニングの教え方もさまざまである。たとえば、マンツーマンの指導、グループでの指導、あるいはインターネットや携帯電話、リーフレットでトレーニングの内容を伝えるなどがある。

知りたかったこと

以下の点について明らかにすることを試みた。

- どのトレーニングの手法が他の手法より優れているか;

- トレーニングの量は多い方が優れているか;

- より徹底した指導の方が優れているか。

実施したこと

トレーニングの手法どうしの比較、トレーニングの量の比較、指導の徹底度による比較をした研究を探した。レビューに含む研究は、尿失禁の女性を対象としたが、神経系に疾患のある女性や、妊娠中あるいは最近出産した女性は対象からはずした。

研究結果を比較・要約し、研究方法や研究規模などの要因に基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。最も関心があったのは、治療後の女性の生活の質であった。

わかったこと

4,920人の尿失禁がある女性を対象とした63件の研究が見つかった。最大の研究は362人の女性、最小の研究は11人の女性を対象としていた。これらの研究は世界各国で実施されていたが、そのほとんどは中所得国から高所得国(つまり、女性が適切な医療を受けられる国)のものであった。ほとんどの研究で、継続期間は3か月であった。3件の研究では、営利企業からの資金提供や金銭以外の支援があった。

主な結果

主な関心は、女性の生活の質であった。尿漏れの回数や量、および尿漏れが女性に与える影響や制限について、アンケートを用いて測定した。

1.トレーニングの種類

- 複合トレーニング(たとえば、骨盤底筋群を収縮させるのと同時にブリッジのポーズをとる)は、骨盤底筋群トレーニング単独よりもわずかに優れているかもしれない。

- 骨盤底筋群トレーニングは、間接的なトレーニング(骨盤底筋群の収縮を含まない運動)よりもよいかもしれない。

- 骨盤底筋群トレーニングと間接的なトレーニングを組み合わせても、骨盤底筋群トレーニング単独と比べてほとんど違いがないかもしれない。

2.トレーニングの量

- トレーニングの量については、意見を出すには十分なエビデンスがなかった。

3.指導の徹底度

- マンツーマンの指導とグループでの指導の違いは、おそらくほとんどないだろう。

- インターネットや携帯電話アプリなどの技術を活用した指導は、リーフレットよりも若干優れているかもしれない。

- その他のトレーニングの指導については、意見を出すには十分なエビデンスがなかった。

エビデンスの限界

マンツーマンの指導とグループでの指導では、ほとんど違いがない。一方、骨盤底筋群トレーニング単独と比べて、間接的なトレーニングと骨盤底筋群トレーニングを組み合わせてもほとんど差がないこと、骨盤底筋群トレーニングの指導をテクノロジーで行う方がリーフレットよりも若干優れていること、骨盤底筋群トレーニングの方が間接的なトレーニングよりも優れていることについては、あまり確信がない。

エビデンスに対する信頼性は、ほとんどが低いか、または非常に低い。今後の研究では、このレビューと異なる結果が出る可能性がある。

研究方法が十分に説明されていなかったり、関心のある評価項目についてデータを提供していない研究があったり、レビューに活用できる方法で報告されていなかったり、異なる研究間で結果に一貫性がなかったり、多くの研究が非常に小規模であったりしたため、エビデンスについて確信が持てなかった。

このエビデンスの更新状況

エビデンスは、2023年9月27日までのものである。

Hay-Smith EJC, Starzec-Proserpio M, Moller B, Aldabe D, Cacciari L, Pitangui ACR, Vesentini G, Woodley SJ, Dumoulin C, Frawley HC, Jorge CH, Morin M, Wallace SA, Weatherall M

多発性硬化症(MS)の人に対するナタリズマブ(NTZ)の利益とリスクは何か?

2 weeks 1 day ago
主要メッセージ
  • 2年間の治療後、ナタリズマブ(NTZ)はプラセボ(偽薬)と比較して、再発寛解型MSの再発頻度を減少させ、障害の進行を遅らせる。治療開始1年後、再発寛解型MSに対する利益と有害性において、ナタリズマブとバイオシミラー(バイオ後続品、品質・安全性・有効性が先行バイオ医薬品と同等・同質である医薬品)NTZの間にほとんど差がない可能性がある。

  • 二次性進行型MSがある人の場合、2年間の治療後、ナタリズマブは再発頻度を減少させる可能性があるが、障害の進行度にはほとんど影響しない可能性がある。

  • 多発性硬化症(MS)の人に対するナタリズマブの利益と有害性を評価するためには、より多くの非白人集団を対象とし、より長期間の研究が必要である。

多発性硬化症(MS)とは何か?

多発性硬化症は、若年層、白人に最も多く見られる中枢神経系の疾患である。主に脳と脊髄に影響が及び、身体や認知(思考)機能に関連するさまざまな障害を引き起こす。神経系の炎症と損傷は、徐々に運動機能、感覚、思考や感情など、すべての神経機能に影響を与える。多発性硬化症の最も一般的な病型は、再発寛解型MSであり、症状が悪化(再発)する期間と、症状が落ち着いている(寛解)期間を繰り返す。再発寛解型MSの人の中には、時間の経過とともに、二次性進行型MSに移行する人もいる。二次性進行型MSは、神経機能が時間とともに悪化し、障害が進行していく。

多発性硬化症(MS)はどのように治療されるのか?

現在のところ多発性硬化症を完治させる治療法がないため、 症状の管理、炎症の疾患活動性の低下、障害の進行を遅らせることを治療目標としている。これらの治療は、再発頻度を減らし、磁気共鳴画像(MRI)上で認める新たな病変(脳の損傷)の発生を抑制、または既存の病変が広がったりするのを抑え、障害の進行を遅らせることを目的とした疾患修飾薬(DMTs)と呼ばれる薬剤を用いて行われる。ナタリズマブは、再発寛解型MSの治療薬として承認されている疾患修飾薬である。

知りたかったこと

多発性硬化症がある⼈の病型を問わず、ナタリズマブのみ使用の場合、またはナタリズマブを他の治療薬と併用して使用した場合の利益と有害性を調べたかった。

本レビューでは、以下の評価項目に注目した:

  • 再発を経験した人の数;

  • 障害が悪化した人の数;

  • 重篤な有害事象を経験した人の数;

  • 生活の質(QOL)への影響;

  • MRI上で病変の活動性(脳損傷が新たに出現または既存の脳損傷の広がり)が認められた人の数;

  • 有害事象のために治療を中断(治療中止)した人の数。

実施したこと

多発性硬化症がある⼈の病型を問わず、ナタリズマブに関する研究を検索した。対象とした研究結果を分析および比較し、研究方法と規模に基づいて、エビデンスにどれだけの信頼性があるかを評価した。

わかったこと

合計3,255人を対象とした5件の研究を特定した。これらの研究は、主にヨーロッパと北米で、白人女性を対象に実施されていた。

再発寛解型MSの場合:

  • 2年にわたるフォローアップ時、ナタリズマブはプラセボと比較して:

    • 再発および障害のリスクを減らす;

    • 重篤な有害事象のリスクをわずかに軽減させる可能性がある;

    • 生活の質(QOL)にごくわずかな改善をもたらすかもしれない;

    • MRI上で認める病変の活動性を低下させる;

    • 有害事象による治療中止には、おそらくほとんど影響を与えない可能性がある。

  • 1年にわたるフォローアップ時、ナタリズマブはバイオシミラーNTZ(ナタリズマブとほぼ同じ薬)と比較して:

    • 利益と有害性にはほとんど影響を与えないかもしれない。

二次性進行型MSの場合:

  • 2年にわたるフォローアップ時、ナタリズマブはプラセボと比較して:

    • 再発率を低下させる可能性がある;

    • 障害の進行、重篤な有害事象、または有害事象による治療中止にほとんど影響を与えないかもしれない;

    • 生活の質(QOL)の改善には、おそらくほとんど影響を与えない可能性がある。

エビデンスの限界は何か?

エビデンスに対する信頼性は、非常に低いものから高いものまでさまざまであった。信頼性が限定的であった場合では、対象とした研究の規模が小さかったことが主な理由であった。また、製薬会社側の経済的な利益が、研究結果の報告に影響を与えた(結果が公平に報告されていない)可能性があることも懸念される。さらに、研究期間は比較的短く、最長24ヵ月間であった。

このエビデンスはどれくらい最新のものか?

エビデンスは2024年2月時点のものである。

Liu C, Cai Z, Zhao L, Zhou M, Zhang L

一般人に対し応急手当トレーニングを行うことは効果的か?

2 weeks 1 day ago
要点
  • 一般人(正式な医療教育を受けていない人々)に対する応急手当トレーニングは、応急手当を受けた人の健康アウトカム、提供された応急手当の質、または応急手当を提供する人の援助行動(他者への応急手当の実施を含む)を改善するかどうかについて、現時点では不明である。

  • 一般人に対する応急手当トレーニングは、短期的(トレーニング後1か月以内)には、応急手当に関する知識、技能、および自己効力感(応急手当を提供できるという自信)を向上させる可能性があるが、短期的な援助意欲への効果については不明である。

  • 今後の研究では、施策決定者にとって重要な以下の項目に焦点を当てるべきである。

    • 応急手当に関する知識、技能、および態度を評価するためのアンケートやその他の測定方法の標準化

    • 費用や潜在的な有害事象を含めた、長期的なトレーニング効果の検証

    • 低所得国および下位中所得国における応急手当トレーニングの影響の解明

応急手当トレーニングとは何か?

応急手当とは、病気やけがをした人に対して基本的な手当を行うことであり、応急手当トレーニングとは、応急手当を行うことに関する知識、技能、および態度を向上させるための目標を定めた学習活動(講習やプログラムなど)のことである。

知りたかったこと

一般人(正式な医療教育を受けていない人々)に対する応急手当トレーニングが、他の種類のトレーニングやトレーニングを行わなかった場合と比較して、以下の項目の改善に有効かどうかを明らかにしたいと考えた。

  • 応急手当を受けた人の健康状態

  • 応急手当の質

  • 実際の緊急時における応急手当を行う人の行動(援助行動)

  • 応急手当に関する知識、技能、自己効力感、および援助意欲

また、応急手当トレーニングの費用や、有害事象の有無についても調査することを試みた。

何を行ったのか?

一般人を対象とした応急手当トレーニングについて、他の種類のトレーニング(メンタルヘルスへの応急手当やHIVの予防など)を行った場合、またはトレーニングを行わなかった場合と比較した研究について検索した。得られた研究結果を統合し、研究方法や研究規模などの要因に基づいてエビデンスの信頼性を評価した。

何がわかったのか?

合計15,657人の医療教育を受けていない参加者を対象とした36件の研究が見つかった。成人を対象としたものが17件、小児や未成年を対象としたものが19件であった。研究は世界各国で実施されており、大半は高所得国と中所得国(半数は米国)であったが、低所得国ではナイジェリアの2件のみであった。

応急手当のトレーニングが、実際の緊急時において応急手当を受けた人の健康アウトカムや、応急手当の質に与える影響についてエビデンスを示した研究はなかった。また、3,070人の参加者を対象とした1件の研究では、援助行動について調査を行っていたが、応急手当のトレーニングによって影響を受けたかどうかを判断するのに十分なデータは示されていなかった。

他の種類のトレーニングを行った場合やトレーニングを受けなかった場合と比較すると、短期的(トレーニング後1か月以内)には、以下の項目を向上させる可能性がある。

  • 知識(合計3,515人の参加者を対象とした8件の研究より)

  • 技能(合計3,063人の参加者を対象とした12件の研究より)

  • 自己効力感(合計285人の参加者を対象とした2件の研究より)

しかし、短期的な援助意欲に対する効果については不明である(合計1,083人の参加者を対象とした2件の研究より)。

エビデンスの限界は何か?

援助行動の向上に関しては、エビデンスが1件のみであり、また実際に応急手当を行う機会が限られていたため確信性は低いが、短期的な知識、技能、および自己効力感の向上については中等度の確信性が認められた。しかし、参加者を無作為に割り付けたかどうかについての報告がすべての研究において明確であったわけではなく、参加者が自らのトレーニングについて識別していた可能性があり、加えて測定ツールの妥当性に関する情報も不足していた。援助意欲の向上に関するエビデンスについては確信性が低い。参加者がトレーニング後に援助意欲が高まったと回答することが「正解」であると考えた可能性もあるが、この結果を確認するために十分な研究はなかった。

本エビデンスはいつのものか?

2024年12月時点におけるエビデンスである。

Kendall I, Laermans J, D'aes T, Borra V, McCaul M, Aertgeerts B, De Buck E

介護施設に住む高齢者の転倒を減らすために考案された介入策は、どの程度効果的なのか?

2 weeks 1 day ago
主な結果
  • 介護施設での転倒は、施設スタッフの協力を得て、入所者の個々の状況(認知症患者など)に応じて実施される複数の因子からなる介入、運動、ビタミンDの補給によって減少すると考えられる。転倒者数は、栄養士による献立作成支援を通じて乳製品の量を増やすこと、認知障害のある入居者を運動させることによって減少する可能性がある。投薬の適切性を高めることを目的とした単独介入によって転倒が減少するかどうかは不明である。

  • 多因子介入と運動介入が費用対効果に優れている可能性がある。しかし、運動を継続しなければ、転倒に対する効果は持続しない。管理栄養士による献立作成支援を通じて乳製品の摂取量を増やすことで、転倒による骨折者数を減らすことができるかもしれない。

  • 現在、介護施設での転倒を予防する方法に関する情報は更新されている。利用可能なエビデンスについては、概ね中等度から低い信頼度しか持てない。介護施設に住む人々の転倒を予防する方法、特に最も効果的な運動の種類や、服薬を改善するための介入策については、さらなる研究が必要である。

転倒の評価に使用された介入をどのように報告するのか、なぜそれが重要なのか?

老人ホームなどの介護施設における高齢者の転倒はよくあることで、自立性の喪失、怪我、時には怪我による死亡を引き起こすこともある。このため、転倒防止のための効果的な介入は重要である。

高齢者の転倒を減少させるためにデザインされた介入を、介入を受けていない群 と比較した研究は、欧州転倒予防ネットワーク(ProFaNE)が開発した転倒予防分類システムを参考に、タイプ別に分類している。介入は以下のように構成されている:

  • 多因子介入:参加者個人の転倒の危険因子に基づいて、運動、投薬の見直し、ビタミンDの補充など、2種類以上のカテゴリーの介入を行う;

  • 単一介入:主要なカテゴリーの介入のうち1種類だけが、グループの参加者全員に行われる;

  • 複数介入:同じ組み合わせの介入が、グループの参加者全員に行われる。

知りたかったこと

介護施設に住む高齢者の転倒を減少させる介入策を、転倒者数と転倒の回数の観点から調べたいと考えた。また、骨折のリスク、介入による好ましくない影響、経済的アウトカムについても検討した。

実施したこと

介護施設に住む高齢者の転倒を減らすための介入に関する研究を検索した。研究結果を比較して要約し、研究方法や規模などの要素から、エビデンスの確実性を評価した。

わかったこと

104件の研究(68,964人の高齢者)が見つかり、平均年齢は84歳で、そのうち72%が女性であった。研究は25か国で行われ、多因子介入、単一介入(運動、薬物療法の最適化、ビタミンDの補充、栄養士のアドバイスと乳製品の補給を増やすための献立作成、支援技術(高齢者の機能を助ける道具)、スタッフのトレーニング、ケアの提供方法の違い)、複数介入について検討された。

  • 全体として、多因子介入はおそらく転倒率(ある一定期間における転倒回数)を下げることはないが、おそらく転倒者数を減少させる。しかし、施設スタッフの助けを借り、入所者の個々の状況(認知症患者など)に基づいて実施された多因子介入は、より大きな効果があり、おそらく転倒率と転倒者数を減少させた。多因子介入は、転倒を減らすうえで費用対効果も高い可能性がある。

  • 単一介入としての積極的運動は、おそらく転倒率と転倒者数を減少させるが、骨折リスクにはほとんど影響しない可能性がある。しかし、運動を継続しなければ、転倒率に対する効果は持続せず、転倒者数に対する効果もおそらくない。また、積極的な運動介入は、認知機能障害(精神的能力の低下)のある参加者の転倒者数を減少させる可能性があり、転倒を減少させるために費用対効果が高い可能性がある(オーストラリアの医療サービスの観点から見た場合)。 

  • 全体として、薬剤処方の改善を目的とした介入はさまざまであり、転倒率にはほとんど差がないか、おそらく転倒者数にもほとんど差がないであろう。アセスメントを実施し、推奨を行うことで、入居者が服用する薬剤の適切性を改善することを目的とした単一介入の効果については不明である。薬剤処方を改善するためのこのような単一介入は、単一介入としては費用対効果が低いかもしれない。

  • ビタミンDの処方(カルシウムの有無にかかわらず)はおそらく転倒率を減少させるが、転倒者数にはほとんど差がない。これらの研究に参加した住民のビタミンDレベルは低かったようだ。

  • 管理栄養士による献立作成の支援を通じて、入所者への乳製品の提供を増やすことで、転倒者数を減らし、転倒による骨折のリスクを減らすことができるかもしれない。転倒率については報告されていない。

  • 介入による好ましくない影響については、対象となった研究では全体的に報告が不十分であったため、不明である。

エビデンスの限界

入手可能なエビデンスに対する信頼性は、ほとんど「中等度」から「ほとんどない」の範囲にあった。多くの研究では、人々は自分がどの治療を受けているかを認識しており、また、すべての研究が関心のあるすべての事柄について情報を提供しているわけではないので、信頼性は限定的であった。また、多くの研究において情報収集の方法にも問題があった。

このレビューの更新状況

このレビューは、2010年、2012年、2018年に発表された旧バージョンを更新したものである。2024年5月10日時点におけるエビデンスである。

Dyer SM, Kwok WS, Suen J, Dawson R, Kneale D, Sutcliffe K, Seppala LJ, Hill KD, Kerse N, Murray GR, van der Velde N, Sherrington C, Cameron ID

オピオイド使用障害は、専門クリニックではなく、家庭医(プライマリ・ケア診療所)で治療できるか?

2 weeks 1 day ago
主な結果

- オピオイド使用障害患者をプライマリ・ケアで治療する場合、専門クリニックで治療する場合と比較して、治療プログラムの継続性や重大な副作用に差があるかどうかは不明である。プライマリ・ケアで治療すると、非処方オピオイドの使用をより避けられるかもしれない。

- これらの結果の信頼性は低い、あるいは非常に低い。参加したプライマリ・ケア診療所と患者がやや非典型的であったため、ほとんどのプライマリ・ケア診療所やオピオイド使用障害患者に今回の結果を一般化することが困難であったことが主な理由である。

オピオイド使用障害とは何か?

オピオイド医薬品の中には、痛みを治療するために処方されるものもあるが(例えば、モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフォン)、違法に製造・使用されるものもある(例えば、ヘロインやフェンタニル。フェンタニルは処方によっても入手できる)。オピオイド使用障害とは、オピオイド医薬品を繰り返し使用し、自分自身や他人に害を及ぼすリスクがあるものを言う。その害の多くは、オピオイドへの渇望やオピオイド離脱症(不安、発汗、筋肉痛、睡眠障害、気分が悪くなる、おなかの痛み、抑うつなどの症状を含む)などの症状があることによる。

オピオイド使用障害はどのように治療されるのか?

オピオイド使用障害は通常、複数の治療法が利用可能な専門クリニックで治療されることが多い。これには、「解毒」(薬から離脱するための支援)、カウンセリング、支援サービス(例えば、住居、雇用、法律問題などに関する支援)が含まれる可能性がある。しかし、主な治療は薬物療法であり、多くの場合、他のオピオイドと同様の効果(例えば、メタドン)をもたらすか、あるいは弱い(部分的な)効果(例えば、ブプレノルフィン)をもたらす長期持続型のオピオイドが処方される。この目的で長時間作用型オピオイドが処方することを、オピオイド作動薬療法という。

知りたかったこと

オピオイド作動薬療法を専門クリニックではなく、プライマリ・ケア診療所で行うことで、オピオイド使用障害患者に同等以上の結果が得られるかどうかを知りたかった。具体的には、以下の項目に関して差があるかどうかを調べようと考えた:

- 治療を継続する(「治療継続」);

- オピオイドの使用を避ける(「非処方オピオイドからの断薬」);

-(死亡や入院のような)大きな好ましくない影響;

- 好ましくない影響による研究からの離脱;

- 生活の質が向上した;

- 患者の満足度が向上した;

- 何らかの理由で死亡した;

- オピオイドが原因で死亡した(過剰摂取など);

- 何らかの理由で病院または緊急治療室に入院した;

- 何らかの理由で投獄された(つまり刑務所に入った);

- 軽微な好ましくない影響(例えば、禁断症状)があった。

なぜこれが有益だと考えたのか?

プライマリ・ケア診療所は広く普及しており、より利用しやすくなる可能性がある。プライマリ・ケア診療所への通院であれば、社会的なスティグマは少ないだろうし、プライマリ・ケア診療所に定期的に通院していれば、オピオイド使用障害とは関係のないさまざまな病状について話し合ったり治療したりする機会も増えるだろう。

実施したこと

オピオイド使用障害のある患者が、プライマリ・ケアと専門医療でオピオイド作動薬療法を受けた場合を比較した研究を探した。研究の質を評価し、結果をまとめた。

わかったこと

1,952人の成人オピオイド使用障害患者を対象とし、プライマリ・ケアまたは専門医療で治療された7件の研究が見つかった。米国で5件、フランスで1件、ウクライナで1件の研究が行われた。参加者の平均年齢は38歳で、4人に3人が男性だった。この研究では、妊娠中、ホームレス、アルコール中毒、その他の精神疾患など、「ハイリスク」の人々は除外されている。

治療プログラムへの定着率が群間で異なるかどうかは不明であった(7件の研究、1,952人)。プライマリ・ケアで治療を受けた人では、非処方オピオイドの使用がより避けられている可能性があり(5件の研究、428人)、主要な副作用に差があるかどうかは不明であった(1件の研究、93人)。

プライマリ・ケアで治療を受けた人は、専門医療で治療を受けた人に比べ、治療に対する満足度が高いかもしれないが、QOL、死因、軽微な副作用に明確な差はなかった。関心を寄せていたその他の指標については、情報がなかった。

エビデンスの限界

エビデンスに対する確信度は全体的に低いが、その主な理由は、患者とプライマリ・ケア診療所がさまざまであったからである。患者は通常よりもリスクが低く、安定している傾向があった。また、プライマリ・ケア診療所は、オピオイド使用障害に関する経験が豊富であったり、専門クリニックとのつながりがあったりした。これらの結果が、ほとんどのオピオイド使用障害者(中には安定性が低く、リスクが高い人もいる)や、ほとんどのプライマリ・ケア提供者(中にはオピオイド使用障害の治療経験がないか、ほとんどない人もいる)に一般化できるかどうかは不明である。

このエビデンスの更新状況

2025年3月7日時点のエビデンスである。

Perry D, Kirkwood JEM, Doroshuk ML, Kelmer M, Korownyk CS, Ton J, Garrison SR

透析を必要とする慢性腎臓病患者に対するカルニチン補充療法の効果

3 weeks 5 days ago
レビューの論点

カルニチン欠乏症は、透析を必要とする慢性腎臓病(CKD)患者にみられる重要な問題である。透析に伴うカルニチン欠乏によって、透析中の症状(例:筋肉のけいれん(こむら返り)や筋力低下など筋肉症状や低血圧)および腎不全の慢性合併症(例:貧血)が悪化する可能性がある。しかし、カルニチンを補充すれば、透析に伴うカルニチン欠乏の症状を改善できるかどうかは不明である。

本レビューで実施したこと

透析を要するCKD患者に対するカルニチン補充に関して実施された全ランダム化比較試験について、医学文献を検索した。目的は、カルニチン補充が生活の質(QOL)およびカルニチン欠乏による症状を改善するかどうかを明らかにすることにあった。また、有害事象の観点から、カルニチン補充が安全かどうかも評価した。エビデンスの確実性は、GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluations)を用いて評価した。

わかったこと

透析を受けているCKD患者計3,398人を対象とした研究52件が見つかった。L-カルニチンがQOLおよび透析に伴うカルニチン欠乏による症状に与える影響については、明らかにすることができなかった。一方、L-カルニチンによってこのような患者の貧血が改善する可能性が示唆された。また、この患者集団に対するL-カルニチン補充の有害作用については、エビデンスがきわめて少ない。

結論

QOL、疲労スコア、筋けいれん(こむら返り)、透析中の血圧低下(透析低血圧)に対するカルニチン補充療法の効果は、いまだ不明であることがわかった。透析を必要とするCKD患者では、L-カルニチンによって貧血関連マーカー(ヘモグロビン値およびヘマトクリット値)が改善する可能性がある。この患者集団を対象としたカルニチン補充療法の有効性と安全性を評価するためには、さらに研究が必要である。

Nishioka N, Luo Y, Taniguchi T, Ohnishi T, Kimachi M, Ng RCK, Watanabe N

早産児や超低出生体重児に対する集中治療室での明暗周期のある光環境のベネフィット(有益性)とリスクは?

1 month 1 week ago
要点

- 早産児に関して、新生児集中治療室(neonatal intensive care unit: NICU)での明暗周期のある光環境が成長、神経系の発達、望ましくない事象 に影響するかどうかは不明である。

- NICUでの明暗周期のある光環境が入院期間を短縮するかどうかは不明である。

- この分野での今後の研究は、NICUでの明暗周期のある光環境が長期的健康に及ぼす影響を評価することに焦点を当てる必要がある。

集中治療室における明暗周期のある光環境とは?

早産児は、体内時計である概日リズムを発達させるための身体システムに関する十分な信号を母親から受け取っていない。早産児は通常、出生後はNICUでケアされるが、そこでは常時高照度の照明が使用されることが多い。このような環境には、明暗周期のような時間固有信号がない。このため、神経系の発達がさらに制限されるかもしれない。明暗周期のある光環境とは、NICUの照明を調整する方法のことで、一般的には、新生児が病院の外で経験する自然な明暗周期を模倣する。

知りたかったこと

私たちは、NICUでの明暗周期のある光環境が新生児の成長、神経系の発達、入院期間、酸素療法の期間、望ましくない副作用に及ぼす利益と害を調べたいと考えた。

実施したこと

NICUにおいて、明暗周期のある光環境とほぼ暗闇または連続的な明るい光の環境を比較検証した研究を検索した。研究結果を比較して要約し、研究方法や研究の規模などの要素に基づいて、エビデンス(科学的根拠)に対する信頼性を評価した。

わかったこと

早産児1633例を対象とした20件の研究が同定された。これらの研究は、NICUにおいて、明暗周期のある光環境とほぼ暗闇または連続的な明るい光の環境を比較したもので、世界各国で実施されていた。

暗闇に近い状態と比べて、明暗周期のある光環境が新生児の成長、神経系の発達、入院期間、酸素療法の期間、望ましくない副作用に影響を及ぼすかどうかは不明である。

連続的な明るい光の環境と比較して、明暗周期のある光環境が新生児の成長、神経系の発達、酸素療法の期間、望ましくない副作用に影響を及ぼすかどうかは不明である。明暗周期のある光環境は入院期間を10日短縮するかもしれないが、この結果について確実性は非常に低い。

エビデンスの限界

これらのエビデンス(科学的根拠)には確信が持てない。なぜなら、十分な乳児数(サンプルサイズ)を対象として適切に実施された研究が不足しているため、結果について確信が持てないからである。すべての研究が本レビューのアウトカムに関するデータを提供していたわけではない。

本エビデンスの更新状況

本レビューは2016年のレビューを更新するものである。本エビデンスは2023年9月現在のものである。

Morag I, Xiao Y-T, Bruschettini M

チョコレート嚢胞(卵巣にできる、子宮内膜に似た組織の塊)の治療には、どの手術法が最も適しているか?

1 month 2 weeks ago
要点

- チョコレート嚢胞(卵巣にできた子宮内膜症)の外科的治療では、ドレナージ(嚢胞の内容物を排出させる)や焼灼術(子宮内膜症を電流やレーザーで破壊する)よりも摘出術(チョコレート嚢胞を卵巣から取り出す)の方が、月経痛(生理痛)や性交(セックス)時の痛み、チョコレート嚢胞が再発するリスク、さらに手術が必要になるリスクを改善できる可能性がある。
- 今後の研究では、合併症を記録し、手術の選択が妊娠の可能性に影響するかどうかを調べるべきである。

チョコレート嚢胞とは、何か?

子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が他の場所で増える病気である。痛みを伴うことがあり、なかなか妊娠しない女性によく見られる。卵巣内で子宮内膜症の組織が増えて、チョコレート嚢胞と呼ばれる袋状の塊になることがある。現在、大きくて痛みを伴うチョコレート嚢胞の外科的治療では、摘出術(チョコレート嚢胞を取り出す)、ドレナージ(チョコレート嚢胞の内容物を排出させる)をして焼灼する(子宮内膜症の組織を電流やレーザーで破壊する)のが一般的である。ほとんどの専門家は、この2つの治療を行う方法として、外科医が腹部に小さな穴を開けてカメラで内部を観察する腹腔鏡手術が最もよいという意見で一致している。多くの女性が、不妊治療を開始する前に、あるいは自然妊娠の可能性を高めるために、チョコレート嚢胞の手術を受ける。

知りたかったこと

チョコレート嚢胞の摘出術が、以下の項目について、ドレナージや焼灼術よりも良いかどうか知りたかった。

- 月経痛(生理痛);
- 性交(セックス)中の痛み;
- 手術の合併症や開腹手術への切り替えの必要性など、望ましくない事象のリスク;
- チョコレート嚢胞が再発するリスク;
- さらに手術が必要になるリスク;
- 自然妊娠の可能性;
- 不妊治療による妊娠の可能性。

実施したこと

痛みや妊娠する可能性を改善するために手術を受けた女性において、チョコレート嚢胞の摘出術をドレナージや焼灼術と比べた研究を検索した。研究結果を比較および要約し、研究方法や規模などの要因に基づいてエビデンスの信頼性を評価した。

わかったこと

その結果、18歳から40歳までの女性578人を対象とした9件の研究が見つかった。この結果を総合すると、ドレナージや焼灼術に比べ、摘出術は術後2年間までの生理痛や性交時痛のリスクを減らすかもしれないことがわかった。5本の論文では、手術中に開腹手術への切り替えはなかったと述べられているが、その他の望ましくない事象について情報を提供している研究はなかった。ドレナージや焼灼術と比べて、摘出術はチョコレート嚢胞が再発するリスクを下げ、術後1年間の再手術の必要性を下げるかもしれない。しかし、手術後1年間に妊娠する可能性については、2つの術式にほとんど差がないかもしれない。

エビデンスの限界

ほとんどのエビデンスについて、信頼性が低い。なぜなら、規模がとても小さい研究があったり、対象となった女性がどの治療法を受けたか知っている研究があったりしたからである。

このエビデンスの更新状況

エビデンスは、2022年12月現在のものである。

Kalra R, McDonnell R, Stewart F, Hart RJ, Hickey M, Farquhar C

経腟分娩後の大量出血を予防するためのトラネキサム酸の利点とリスクは?

1 month 2 weeks ago
要点
  • トラネキサム酸を予防的に投与しても、経腟分娩後の大量出血にはほとんど差がない。

  • トラネキサム酸による有害な影響があるかどうかについては分からない。

レビューの論点

分娩後異常出血とは、出産後に大量に出血することある。よく見られる合併症であるが、生命を脅かすこともある。ほとんどの女性は、分娩後異常出血を予防するために、正常分娩(経腟分娩)の後に子宮の収縮を促す薬(子宮収縮薬と呼ばれる)を投与される。トラネキサム酸は、出血が増えるような手術や健康状態での出血を減らすために使われる。血栓の破壊を防ぐ働きをする。出産後の出血量が多い場合、出血量を減少させる。トラネキサム酸が出産後の大量出血の予防に役立つかどうかは分かっていない。

何を調べようとしたのか?

経腟分娩時にトラネキサム酸を投与した(子宮収縮剤の併用も含む)場合、出産後に大量出血する女性が少なくなるかどうかを知りたかった。また、経腟分娩時のトラネキサム酸の投与が有害な影響を及ぼすかどうかも調べたかった。

実施したこと

知りたかったことについて検討している研究を探した。チェックリストを使用し、検証可能な情報を含む研究のみが含まれるようにした。研究結果を比較・要約する前に、研究の質について判断した。最後に、研究結果に対する信頼度を評価した。

重要である理由

経腟分娩時に女性にトラネキサム酸を投与した場合に、出産後の大量出血を予防する効果があるかどうかを明らかにすることは重要である。もし効果があるのであれば、世界中の女性を助け、出産後に亡くなる女性の数を減らすこともできるだろう。

本エビデンスの更新状況

2024年9月6日までに入手可能なすべてのエビデンスを検索した。

得られたエビデンス

予防的に投与したトラネキサム酸の効果を調べた3件の研究を見つけた。この3件の研究では、大出血のリスクが低いか高い18,974人が対象となった。参加者は、標準治療とトラネキサム酸の静脈内注射、または標準治療とプラセボ(生理食塩水)の静脈内注射のどちらかを受けた。

トラネキサム酸の予防的投与では、出産後の大量出血にほとんど差がないことが分かった。

トラネキサム酸が妊産婦死亡に及ぼす影響については、非常に不確かである。トラネキサム酸は、女性が重篤な状態になるリスクに影響を与えない可能性が高い。

また、輸血を受ける可能性には影響しない。トラネキサム酸を使っても、出産後の外科的介入の必要性は変わらないかもしれない。血栓に対するトラネキサム酸の影響については非常に不確かである。貧血の女性では、トラネキサム酸は子宮の収縮を助ける追加薬剤の必要性に影響を与えないが、貧血のない女性では、この結果がわずかに減った。子宮摘出術に対するトラネキサム酸の影響については、非常に不確かである。母親の満足度に差はないようだ。

エビデンスの限界は何か?

これらの研究は、医療資源に恵まれた環境とそうではない環境の両方の女性を対象としていた。有害な影響を経験した女性はほとんどいなかった。しかし、実際の医療現場で本当にそうなのかどうかは分からない。

結果が意味すること

経腟分娩時に予防的にトラネキサム酸を投与しても、出産後に大量出血する女性の数に差は認められなかった。血栓やその他の重篤な副作用に対するトラネキサム酸の影響についてはほとんど分かっていない。有害な影響について分かっていないことから、経腟分娩時にトラネキサム酸をルーチンで女性に投与することを検討する場合には、臨床医は有益性の欠如と潜在的な有害性を考慮すべきである。

今後、経腟分娩の後の大量出血の予防に役立つかもしれない他の介入に焦点を当てた研究が求められている。

Rohwer C, Rohwer AC, Cluver C, Ker K, Hofmeyr GJ

換気自動制御システムを用いると、患者が集中治療室で人工呼吸器を使用する期間を短縮できるか?

1 month 2 weeks ago
要点
  • 呼吸補助を患者の必要に応じて自動的に調節するシステム(換気自動制御システム)を用いると、医療従事者がこれを管理する方法と比べて、恐らく人工呼吸器を使用する期間が短縮され、集中治療室と病院で過ごす期間のわずかな短縮にもつながる。こうしたシステムを用いた場合、死亡数は恐らくほとんどまたは全く変わらないが、気管チューブを挿入し直す(再挿管)必要性や、気管チューブを挿入するために首の前面に孔を開ける必要が生じる可能性は恐らく減少する。

  • 小児に関してはより多くの研究が必要である。また、今後の研究では患者の生活の質 (QOL)を調べるべきである。

換気自動制御システムとは?

重症患者の多くは、人工呼吸器(換気装置)による呼吸補助が必要である。呼吸補助のレベルを下げ、患者を通常の呼吸へと移行させる(ウィーニングまたは離脱と呼ばれる過程)には、専門知識と継続的なモニタリングの両方が必要となる。ウィーニングを適正に行わないと、人工呼吸器の使用期間が長びく可能性があり、患者は肺の損傷、肺炎、死亡のリスクを負うことになる。往々にして、医療機関の制約ゆえに最も効果的で効率のよい処置ができないこともある。換気自動制御システムは、この問題に解決策をもたらすかもしれない。このシステムは、患者の継続的なモニタリングを行い、医療従事者が介入しなくても、呼吸補助のレベルを調節する。

知りたかったこと

知りたかったのは、以下の評価項目を改善するには、医療従事者によるウィーニング管理より換気自動制御システムの方がよいかどうかである。

  • 人工呼吸器を使う期間

  • 死亡数

  • 集中治療室滞在期間と入院期間

  • 気管チューブの再挿入(再挿管)が必要となる、チューブ挿入のために首の前面に孔を開ける(気管切開)必要が生じるなど、人工呼吸器の使用に関係した望ましくない事象

  • 患者の生活の質 (QOL)

実施したこと

成人と小児について、換気自動制御システムと医療従事者によるウィーニング管理を比較した研究を探した。研究結果を比較してまとめ、研究方法や研究規模などの要因に基づいて、エビデンスの信頼性を評価した。

わかったこと

5,052人(成人4,834人と小児218人)を対象とした62件の研究が見つかった。人工呼吸器が必要になった理由は、肺炎または他の感染症にかかったこと、重傷を負ったこと、または外科手術を受けたことだった。これらの研究は、すでに販売されているいくつかの換気自動制御システムを評価したものである。

主な結果

医療従事者によるウィーニング管理と比べて、換気自動制御システムでは、

  • 人工呼吸器を使用する期間が、恐らく約24%、すなわち成人では1.7日、小児では16時間短い。

  • 死亡者数にはまったく影響しないかもしれない。

  • 集中治療室で過ごす期間は、恐らく14%、すなわち成人では1.3日、小児では0.6日短い。

  • 入院期間は、恐らく10%、すなわち成人では2日、小児では0.9日短い。

  • 再挿管が必要となる数は減ると考えられる。

  • 気管切開が必要となる数は減ると考えられる。

健康面の生活の質 (QOL)について報告した研究はなかった。

エビデンスの限界

さまざまなタイプの人を対象に研究が行われた、換気自動制御システムを用いる方法が違った(人工呼吸器を使う期間、集中治療室滞在期間、入院期間などの評価項目に関して)、または評価項目の結果について確信を持つのに十分な研究がなかった(望ましくない事象に関して)などの理由から、エビデンスに対する信頼性は中等度に留まる。

本エビデンスの更新状況

このレビューは、前回のレビューを更新したものである。エビデンスは2024年1月2日現在のものである。

Rose L, Schultz MJ, Cardwell CR, Paulus F, Couper K, Jouvet P, Blackwood B

医療従事者による薬物有害反応と投薬過誤の報告の改善

1 month 2 weeks ago
要点

- 医療従事者には、医薬品に対する予期せぬ有害反応を報告する責任がある。この反応は「薬物有害事象(Adverse drug events)」として知られており、これは、薬物有害反応(ADRs:Adverse drug reactions)と投薬過誤(MEs:Medication errors)の両者を含む用語である。

- 教育セッション(アウトリーチ(通常よりも範囲を広げた活動)、対面式ワークショップ、または電話によるもの)、注意喚起のためのリマインダーカード、およびADR報告用フォームの提供は、ADRの報告数を大幅に増加させる可能性がある。

- ADRを報告しやすくするために項目を追加し、標準化された退院サマリーは、ADRの報告件数をわずかに増加させる可能性がある。

- 今後の研究では、医療従事者による薬物有害事象の報告を改善することを目的とした介入の有益性(薬物有害事象報告件数の増加)と有害性(誤った薬物有害事象報告件数の増加)を評価する必要がある。

- 低〜中所得国での利用にも適した介入を開発し、厳密に評価を行う必要がある。

知りたかったこと

本コクランレビューでは、医療従事者に対する介入が、薬物有害事象(Adverse drug event)の報告を改善するのに有効かどうかについて調査を行った。薬物有害事象には、薬物有害反応(ADR)と投薬過誤(ME)がある。

実施したこと

医療従事者を対象とした介入によって、薬物有害事象の報告件数が増加するかどうかを明らかにするために、さまざまな研究から得られたエビデンスを調査し、医療従事者から提出された薬物有害事象報告(ADRおよびMEの報告を含む)の総数を比較した。また、医療従事者が報告した薬物有害事象の誤りの数にも注目した。報告総数だけでなく、重篤なもの、高い因果性(その薬剤が原因である確率が非常に高いこと)のあるもの、想定外の事象、または最近(過去5年間に)使用された薬剤に関連したものについての薬物有害事象の報告数も個別に調査した。

わかったこと

本レビューは、医療従事者による薬物有害事象報告の件数を増やすために行われたさまざまな介入の効果を比較した研究15件(参加者計62,389人)をレビューの対象とした。研究はすべて高所得国で実施されていた。介入によって虚偽の薬物有害事象の報告が増えるかどうかについてはどの研究も検討してなかった。

通常の方法(自発的な報告、および医薬品の安全性を監視するための地域単位での研修)と比較して、有害事象を報告する理由と方法に関する教育セッション、およびセッション内容の再確認とADRの報告用フォームの提供は、医療従事者によるADRの報告件数を増加させる可能性がある。

通常の方法(自発的な報告)と比較して、ADRがいつ発生し、どのように発症したかについての項目を追加した標準化された退院サマリーを使用することにより、ADR報告数がわずかに増加する可能性がある。評価された標準化退院サマリーは、患者の診断と入院中に患者が受けた内科的および外科的処置を記録するための「診断群分類(Diagnosis Related Groups:DRG)」制度に基づいて作成されたものである。

各研究で検討された他の以下のような介入の有効性については非常に不確実である:

‐ 開業医や看護師に手紙や電子メールを送付する

- 金銭的または非金銭的インセンティブ、罰金、指導およびリマインダーカードを含む多面的な介入を行う

‐ 政府規制と金銭的インセンティブを組み合わせる

- 四半期ごとの報告書や処方箋用紙にADR報告フォームを含める

- 病院の電子的患者記録に報告書へのハイパーリンクを設定する

- ウェブベースの電子エラー報告システムを再設計し、報告方法を改善する

- 病院に臨床薬剤師を配置し、薬物有害事象の積極的な特定と報告を奨励する

本レビューの更新状況

本レビューは、2022年10月時点における検索に基づいたエビデンスである。

Shalviri G, Mohebbi N, Mirbaha F, Majdzadeh R, Yazdizadeh B, Gholami K, Grobler L, Rose CJ, Chin WY

DASH食は心血管疾患の患者やそのリスクを持つ人々に有用か?

1 month 2 weeks ago
要点

- DASH食が心臓発作、脳卒中および心臓病による死亡を防ぐと言えるだけのエビデンスは不足している。

- DASH食には有害な影響はほとんどない可能性があるが、利用可能なエビデンスは限られており、不確実である。

- 本当にDASH食が重度の心臓病を予防できるか、また長期的に安全であるかを評価するためには、より大規模かつ長期的な研究が必要である。

心血管疾患とは何か?

心血管疾患とは、心臓や血管に影響を及ぼす疾患である。通常、血管内に脂肪が蓄積し、血管が狭くなることと関連している。その結果、血栓(血管内に形成される血液の塊)ができやすくなる。血栓は、心臓発作(心臓への血流が突然遮断されること)や脳卒中(脳の一部への血液供給が遮断されること)の原因となる。心血管疾患は死亡や身体障害の主な原因であるが、健康的な生活習慣によって予防できる場合が多い。多くの因子によって心血管疾患の発症リスクが高まる可能性があり、これらは「危険因子」と呼ばれる。心血管疾患に関連する最も一般的な因子の1つは食事である。

DASH食とは何か?またどのように用いられているのか?

DASH食は、心臓病の主な危険因子である高血圧を減少させるために開発された。DASH食は、果物、野菜、全粒穀物、低脂肪で高タンパクな食物などの健康的な食品を推奨する一方で、塩分、赤身の肉、および砂糖の摂取を減らすことに重点を置いている。DASH食が高血圧を改善し、心臓病の予防にも有用であるという強いエビデンスがあるが、DASH食の心臓病予防効果については、まだ完全には解明されていない。心臓病の予防には、最初の心臓発作や脳卒中を予防する一次予防と、最初の心臓発作や脳卒中が発生した後に次の発作を予防する二次予防がある。

知りたかったこと

- 心血管疾患の一次予防に対するDASH食の効果

- 心血管疾患の二次予防に対するDASH食の効果

- DASH食が有害事象を引き起こすかどうか

何を行ったのか?

DASH食と以下のものについて比較を行った研究について調査を行った:

- 食事制限や特別なダイエット計画がない通常の食事

- 医療専門家が提供するリーフレットや一般的な食事のアドバイスが含まれる最低限のプログラム

- 地中海食などの、他の体系化されたダイエットプログラム

研究デザインに応じてエビデンスの信頼性を評価し、結果の比較、および要約を行った。

わかったこと

心血管疾患のない1,397人を対象とした5件の研究(一次予防に関する研究)が見つかった。心血管疾患を有する人を対象とした研究(二次予防に関する研究)は見つからなかった。追跡期間は最短で16週間、最長で18か月であった。5件の研究はすべて公的機関または非営利団体(米国国立心臓・肺・血液研究所、米国患者中心アウトカム研究所、ポーランド心臓病研究所など)から資金提供を受けていた。

主な結果

DASH食が心臓発作、脳卒中、心臓手術の必要性、心血管系疾患による死亡などの重篤な心臓疾患のリスクを低減するかどうかは不明である。また、DASH食には有害な影響はほとんどない可能性があるが、利用可能なエビデンスが限られているため、明確ではない。

エビデンスの限界は何か?

エビデンスに対する信頼性は、いくつかの要因により制限を受けた。第一に、参加者が食事療法を受けていることを認識していたと思われる研究があり、それが結果に影響を与えた可能性がある。第二に、食事療法がすでに心臓病を患っている人にどのような影響を与えるかを調査したかったが、ほとんどの研究は心臓病に罹患していない参加者を対象としていた。最後に、研究が小規模かつ短期間であったため、調査結果についての信頼性が低下した。DASH食が重篤な心臓病をどの程度予防できるかを調査し、長期的な安全性を確認するためには、より大規模かつ長期的な研究が必要である。

本エビデンスはいつのものか?

2024年5月におけるエビデンスである。

Bensaaud A, Seery S, Gibson I, Jones J, Flaherty G, McEvoy JW, Jordan F, Tawfick W, Sultan SAH

歯科患者の嘔吐反射の管理

1 month 2 weeks ago
レビューの論点

本コクランレビューでは、歯科治療における嘔吐反射の最適な管理方法を調査する。

背景

嘔吐反射は、咽頭や気道を異物から保護し、窒息を防ぐための正常な反応である。歯科治療中に多くの人が異常な嘔吐反射に悩まされている。これにより治療が困難になる、または中断してしまうこともある。嘔吐反射の管理に用いられる介入は、制吐薬、鎮静剤、局所および全身麻酔、薬草療法、行動療法・認知行動療法、指圧、鍼治療、レーザー治療、補装具の使用などがある。

これらの介入が嘔吐反射を軽減し、治療の完遂に有用であるかについて、有効性と安全性の調査が必要であった。これらの介入と、無介入、プラセボ、他の介入とを比較した。

研究の特性

本レビューは2019年3月18日現在のものである。328例(成人263例および4歳以上の小児65例)の4件の試験を対象とした。これらの人々は歯科治療の際、吐き気を催し治療を中断または治療を適切に行えなかった。

主な結果

ツボP6(手首の内側にあるツボ)への鍼治療は、偽鍼治療と比較した場合、歯科治療の完遂や嘔吐反射の軽減に関して、その有用性を示すエビデンスは不確実であった。同様の介入に鎮静剤を追加しても、差が認められなかった。

(親指での押圧または酔い止めリストバンド(手首に装着するボタン付きのリストバンド)による)内関への指圧と鎮静剤との併用または併用無しは、偽指圧と比較して、差が認められなかった。内関への指圧と器具の併用は、歯科治療の完遂および嘔吐反射の減少に差が認められた。内関への指圧と鎮静剤の併用は、差が認められなかった。

内関へのレーザーは、偽レーザー治療と比較して、治療中の嘔吐反射と嘔吐反射の減少に差が認められた。

対象とした研究は、治療の重要な有害性について全く報告がなかった。

エビデンスの質

この知見に対する信頼性は非常に低い。これは、バイアスのリスクが不明であり、対象とした4件の試験の参加者数が少なかったためである。

結論

歯科治療中の嘔吐反射の管理にどの介入がふさわしいかを示す十分なエビデンスは認められなかった。この分野に関して、より適切な形での研究が行われるべきであると提言する。

Eachempati P, Kumbargere Nagraj S, Kiran Kumar Krishanappa S, George RP, Soe HH, Karanth L

がんの化学療法を受けている女性の、妊娠する能力を守るために行う介入は、どの程度効果的で安全か?

1 month 2 weeks ago
主なメッセージ

- 乳がんの女性では、ホルモン療法によって卵巣の機能を一時的に止めれば、化学療法による卵巣機能不全を減らせるかもしれない。これは、介入によって卵巣のはたらきが正常に保たれる可能性があることを意味するが、このエビデンスに対する確信度は低い。

- 化学療法を受けている閉経前の乳がんの女性に対して、妊娠する能力を守るためにどのような方法をとるといいのかについて、結論を出すことはできない。

- この問題に関する研究がもっと必要である。

妊孕性温存とはなにか、なぜ重要なのか?

女性のがん患者には、化学療法が行われることが多い。化学療法は卵巣に害を与え、生殖能力を低下させたり、不妊の原因になったりする。がんになった女性にとって、妊孕性(妊娠する能力)を守れることは、将来の家族計画にとって重要である。そのために、以下の2つの方法がよくとられている。

1.卵巣を薬を使って刺激し、その後卵子または胚を凍結保存しておき、後で利用する(ゴナドトロピンなどの薬を使った卵巣調節刺激法)。

2.ホルモン療法によって、卵巣の働きを一時的に止める(ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬を使った卵巣抑制法)。

知りたかったこと

がんになった女性の妊娠する能力を守る2つの方法の効果を、好ましくない影響があるかどうかも含めて調べたかった。乳がんは、世界中で女性に最も多く見られるがんであるため、このレビューでは乳がんに焦点を当てることにした。

実施したこと

化学療法を受けている閉経前(定期的に月経がある状態)の女性を対象とした研究を検索した。

3つの異なる比較についての研究を調査した。

比較1:卵巣を刺激する薬を使って、卵子または胚を凍結保存して後で利用する方法と、プラセボや通常のケア、無治療、または別の薬を使う方法。

比較2:ホルモン療法で卵巣の働きを一時的に止める方法と、プラセボや通常のケア、無治療、または別のホルモン療法を行う方法。

比較3:卵巣を刺激する薬を使って、卵子や胚を凍結保存して後で利用する方法と、ホルモン療法で卵巣の働きを一時的に止める方法。

研究結果を比較して要約し、研究方法や研究規模などに基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。

わかったこと

23件の研究が見つかった。比較1は2件、比較2は23件であった。比較3に関する研究は見つからなかった。

研究の対象者は、化学療法を受けている閉経前の女性2,647人である。2,366人が乳がんで、311人がその他のがんであった。

比較1

卵巣を刺激する薬を使うことが、乳がんになった女性の採卵卵子の数に与える影響については、非常に不確かである。2つの薬(レトロゾールとタモキシフェン)を比べた研究があり、得られた卵子の数という点では、おそらく両者に差はないことがわかった。

卵巣を刺激する薬を使うことが、調べたかった他の評価項目(卵巣機能不全、生児出産、生存率、有害事象など)に与える影響についてのエビデンスは見つからなかった。

比較2

乳がんになった女性では、ホルモン療法で卵巣の機能を一時的に止めることで、卵巣機能不全が大きく改善するかもしれない。つまり、治療によって卵巣の働きが正常に保たれる可能性がある。

ホルモン療法で卵巣機能を一時的に止めても、乳がん女性の10年間の無病生存率(乳がんの徴候や症状のない状態)や全生存率にはほとんど差がないかもしれない。乳がんになった女性の生児出産率への影響は非常に不確かである。

また、ホルモン療法によって卵巣機能を一時的に止めることが、人工妊娠中絶、流産、早産、分娩合併症、選択的妊娠終了など、妊娠に関連する有害事象に与える影響についても非常に不確かである。

化学療法に関連した有害事象(疲労、吐き気、白血球数の低下による感染リスクの増加など)や妊娠に関連しない有害事象(発汗、ほてり、頭痛など)があった。ホルモン療法によって卵巣機能を一時的に止めると、妊娠に関連しない有害事象が増加する可能性が高い。

比較3

この比較に関するエビデンスは見つからなかった。

乳がん以外のがんの女性

他のがんになった女性については、エビデンスの確実性が非常に低いため、結論を出すことはできない。

エビデンスの限界

比較1については、十分な数の研究がなく、研究が非常に小規模であったため、エビデンスに対する信頼性は中程度から非常に低い。

比較2については、研究が非常に小規模であり、妊娠・出産の症例が数例しかないため、乳がんになった女性に関するエビデンスに対する信頼性はない。加えて、調べたかった項目すべてについての情報がなかった研究もあり、予定より早く中止した研究もあった。

本エビデンスの更新状況

2023年11月時点におけるエビデンスである。

Weterings MAJ, Glanville E, van Eekelen R, Farquhar C
Checked
2 hours 49 minutes ago
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