Latest Japanese Reviews

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性の排卵を促すのに最もいいゴナドトロピン製剤はどれか?

1 day 6 hours ago
要点
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性では、更年期女性の尿から抽出されたゴナドトロピン製剤と遺伝子組換え卵胞刺激ホルモン(遺伝子組み換え技術を用いて生成されたもの)を比べても、生児出産率、多胎妊娠率(双子や三つ子など)、妊娠率、流産率にほとんど差がないかもしれない。

  • 更年期女性の尿から抽出されたゴナドトロピン製剤のうち、ゴナドトロピンを抽出した製剤(HMG)とより精製して卵胞刺激ホルモンだけにした製剤との比較では、生児出産率、多胎妊娠率、妊娠率、流産率に差があるかどうかは分からなかった。

  • クロミフェンクエン酸塩を服用しても妊娠しない女性では、ゴナドトロピン製剤は、クロミフェンクエン酸塩による治療を続ける場合と比べて、双子や三つ子のリスクは増やさず、生児出産や妊娠がより多いだろう。ゴナドトロピン製剤は、流産のリスクを高めるかもしれない。

論点

世界中の7組に1組のカップルは、不妊症かもしれない。不妊症とは、妊娠を望んでから1年以上たっても妊娠しないものを言う。月経周期の中で排卵(卵子が放出されること)に問題があることによる不妊 は、女性がカウンセリングや治療を受ける理由として最もよくあるものである。このような女性には、薬を使って卵巣から卵子が放出されることを促す、いわゆる「排卵誘発」という治療が行われる。治療の第一選択は、通常、クロミフェンクエン酸塩の飲み薬である。クロミフェンクエン酸塩を服用しても効果が出ない場合、最も一般的な治療の第二選択は、注射薬であるゴナドトロピン製剤による排卵誘発である。

どのような治療法があるか?

更年期女性の尿を処理することによって、さまざまな種類のゴナドトロピン製剤が開発されてきた。これらのゴナドトロピン製剤には、精製および高純度のヒト更年期ゴナドトロピン製剤、および精製および高純度卵胞刺激ホルモン製剤が含まれる。その後、さらに高い純度を得るために、遺伝子組換えの技術を用いて人工的に生成した卵胞刺激ホルモンが開発された。排卵はするが、クロミフェンクエン酸塩による治療を6回しても妊娠しない女性は、クロミフェンクエン酸塩による治療を続けるほか、ゴナドトロピン製剤に切り替えることがある。ゴナドトロピン製剤は、複数の卵胞を発育させる可能性がある。その場合、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という重篤な状態を防ぐために、その周期の治療をやめる必要がある。

医師や女性が十分な情報を得た上で治療方針を決めるためには、どの薬が最も効果的かを知ることが重要である。

何が知りたかったのか?

クロミフェンクエン酸塩を服用しても排卵しない、あるいは妊娠しないPCOSの女性において、排卵を促すにはどのゴナドトロピン製剤が最もいいかを調べたかった。

何を行ったのか?

PCOSの女性において、排卵を促すためのさまざまなゴナドトロピン製剤を比べた研究を検索した。レビューに含んだ研究の結果を要約し、研究方法や研究規模などの要因にもとづいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。

何を見つけたのか?

このレビューには、PCOSの女性2,348人を対象とした15件の研究が含まれた。遺伝子組換え卵胞刺激ホルモンと尿から抽出されたゴナドトロピン製剤を比べた研究は10件あった。3件の研究では、ヒト更年期ゴナドトロピン製剤と精製された尿由来卵胞刺激ホルモン製剤を比べていた。また、ゴナドトロピン製剤とクロミフェンクエン酸の継続とを比べた研究が1件あった。

主な結果

尿から抽出されたゴナドトロピン製剤と遺伝子組換え卵胞刺激ホルモンの間には、生児出産、多胎妊娠、臨床的妊娠、流産率においてほとんど差がないかもしれない。ヒト閉経期ゴナドトロピン製剤が、尿から抽出された卵胞刺激ホルモン製剤と比べて、PCOSの女性の妊娠転帰を改善するかどうかは不明である。どの治療法も、OHSSや子宮外妊娠のリスクを減らすかどうかは分からない。

クロミフェンクエン酸塩による治療を続けた場合と比べると、ゴナドトロピン製剤はおそらく、多胎妊娠率を増やさず、生児出産と妊娠がより多くなるだろう。ゴナドトロピン製剤は、クロミフェンクエン酸より流産が多いかもしれないが、OHSSの症例はなかった。

エビデンスの限界は何か?

エビデンスに対する信頼性は、非常に低いものから中程度のものまでさまざまあった。対象者の数が少ない研究が多く、またかなり昔に実施されたものも多かった。そのため、研究方法に関する重要な情報が不足していた。レビューに含んだ15件のうち10件の研究は、企業による支援があると報告されていた。費用や利便性については考慮されていない。治療を受ける時には、費用や利便性、望ましくない影響について医療従事者と相談することが勧められる。

このエビデンスはどれくらい最新のものか?

このレビューは、更新版である。エビデンスは、2024年3月現在のものである。

Weiss NS, Kostova EB, Mol BWJ, van Wely M

骨盤底筋の体操は、フィードバックやバイオフィードバックを使った方が、女性の尿失禁に対して効果があるか?

1 day 6 hours ago
主な結果

- 尿失禁(尿漏れ)のある女性において、骨盤底筋トレーニングとともにバイオフィードバック装置(筋肉の収縮を測って、音声または視覚的なフィードバックをくれるセンサー付きの装置)を使っても、尿失禁に関連したQOL(生活の質)、尿失禁の頻度、症状が治癒または改善したと感じる頻度にほとんど差はない。ほとんどのエビデンスは、腹圧性尿失禁(咳やくしゃみ、歩行、ランニング、ジャンプなどによって起こる尿漏れ)のある女性から得られている。

- 副作用を調べた研究はほとんどなく、調べた研究でも、副作用は軽微で短時間であったか、あるいは全くなかったというものであった。

- どのバイオフィードバックが他のものより優れているのか、バイオフィードバックの方がフィードバックより優れているのか、は不明である。

尿失禁とは何か

尿失禁とは、自分の意思とは関係なく、尿が漏れてしまうことである。女性によく見られる症状で、加齢、妊娠、出産、太り過ぎ、アルコールやカフェインの飲み過ぎなどが原因となる。尿失禁には、咳やくしゃみ、歩行、ランニング、ジャンプなどの体に力が入った時に尿が漏れてしまう「腹圧性尿失禁」と、尿意を強く感じてがまんできずに尿が漏れてしまう「切迫性尿失禁」がある。両方の尿失禁が重なる場合もあり、「混合性尿失禁」という。

骨盤底筋トレーニング、フィードバック、バイオフィードバックとは?

多くの場合、尿失禁の最初の治療法は「骨盤底筋トレーニング」で、骨盤底筋体操やケーゲル体操ともいう。骨盤底筋は骨盤の底にある筋肉で、腸や膀胱を支えている。女性の場合は、子宮と腟も支える。これらの筋肉を鍛えれば、女性が自分の膀胱をよりコントロールできるようになるかもしれない。トレーニングでは、これらの筋肉を収縮させる(締めて持ち上げる)。多くの女性にとって、このトレーニングをうまくできているかを判断するのは難しい。フィードバックやバイオフィードバックは、女性がどの程度うまくいっているのか、より多くの情報を与えることができる。「フィードバック」とは、医療従事者が筋肉に触れたりつまんだりして、女性にうまくできているか伝える方法である。「バイオフィードバック」はセンサー付きの装置を使う。この装置は、腟や直腸に入れ、筋肉が収縮する時の変化を測定し、画面やスピーカーに信号を送るので、女性はそれを見たり聞いたりすることができる。

知りたかったこと

骨盤底筋トレーニングにフィードバックやバイオフィードバック、あるいはその両方を使うことで、以下の効果が得られるかを知りたかった。

- 尿失禁に関連する生活の質を改善する;

- 尿失禁の回数を減らす;

- 尿失禁の量と頻度を減らす。

また、女性が尿失禁が治った、あるいは改善されたと感じているかどうか、治療に満足しているかどうか、フィードバックやバイオフィードバックによる好ましくない影響があるかどうかについても知りたいと考えた。

実施したこと

尿失禁の女性に対する骨盤底筋トレーニングにフィードバック、バイオフィードバック、またはその両方を使ったものとそれらを使わなかった骨盤底筋トレーニングとを比べた研究を検索した。また、いずれかのバイオフィードバックを他のものと比べた研究も探した。その結果を比較し、要約し、研究方法や規模などの要素から、エビデンスにおける信頼性を評価した。

わかったこと

3,483人の尿失禁の女性を対象とした41件の研究が見つかった。ほとんどの女性が腹圧性尿失禁で、年齢は18~80歳、平均年齢は約55歳であった。ほとんどの研究は3ヶ月間の期間で、高所得国で行われた。バイオフィードバック装置を作っている会社のような、商業的資金提供者がいる研究もいくつかあった。

33件の研究では、バイオフィードバックを使った骨盤底筋トレーニングと骨盤底筋トレーニング単独とを比べていた。バイオフィードバックを受けた女性では、生活の質にはほとんど差がなく、尿失禁の頻度もわずかに減少したが、これは顕著な差とは言えないだろう。バイオフィードバックを受けた女性は、自分の症状が治った、または改善したとまでは言えないだろうが、自分の治療や治療結果に対してより大きな満足感を感じるかもしれない。

フィードバックまたはバイオフィードバックを受けた女性と骨盤底筋トレーニング単独をした女性、フィードバックを受けた女性とバイオフィードバックを受けた女性、なんらかのバイオフィードバックを受けた女性と他のバイオフィードバックを受けた女性の間に差があるかどうかは不明である。

多くの研究では、治療による好ましくない影響は報告されていない。また、好ましくない影響を調べた研究では、深刻なものや持続するものはなかったと報告している。

エビデンスの限界

女性の尿失禁治療において、骨盤底筋トレーニングにバイオフィードバックを使った場合と、骨盤底筋トレーニング単独の場合の差はほとんどないことには、確信が持てる。

その他のエビデンスについては、研究の数が少なく、規模も小さく、知りたかった評価項目を測定していないために確信が持てない。

本レビューの更新状況

エビデンスは、2023年9月27日現在のものである。本レビューは、2011年に発表されたコクラン・レビューを更新したものである。

Fernandes ACNL, Jorge CH, Weatherall M, Ribeiro IV, Wallace SA, Hay-Smith EJC

コンピューターやロボットを使った歩行トレーニング機器は脳卒中後の歩行能力の改善に役に立つか?

1 day 6 hours ago
主なメッセージ

・コンピューター機器やロボットと理学療法を組み合わせることは、脳卒中後に再び自立して歩けるようになるのに役に立つだろう。特に、脳卒中発症後3ヶ月以内の患者には有効であろう。

・どのくらいの頻度や期間で、これらの機器を使用すべきかについて明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

脳卒中とは?

脳卒中は、脳の一部分への血流が遮断され、脳細胞に酸素と栄養が行き渡らなくなることで起こる。そして多くの場合、左もしくは右半身の脱力を伴う突然の発作が起こる。脳への血流が止まると、脳細胞は死滅し始める。その結果、脳損傷や能力障害、さらには死に至ることもある。

脳卒中になった人は、脳損傷による後遺症に長い間悩まされることが多い。片側または両側の脚の筋力が弱くなったり、関節が硬くなったり、動きがぎこちなくなることで歩きにくくなるなど、身体活動が困難になるかもしれない。以前のような自立した生活を取り戻すまでには、理学療法を含む長時間のリハビリテーションが必要となるだろう。理学療法には、運動療法やマッサージ、日常生活場面での練習、電気治療が含まれ、人々が動きを取り戻すサポートを行う。

脳卒中後の歩行

脳卒中後の最も重要な目標のひとつは、再び歩けるようにすることである。ロボット(特定のタスクを自動的に実行するようにプログラムされているもの)やコンピューター制御された(電気機械的)機器が、歩行練習に役立つように開発されている。脳卒中の後遺症で歩行が困難になった人は、良くなるまでに多くの練習が必要である。これらの歩行トレーニング機器が効果的かどうかは不明である。

知りたかったこと

歩行トレーニング機器と理学療法を組み合わせることで、そのような機器を使用しない場合と比べ、脳卒中後の歩行能力が改善されるかどうかが知りたかった。

実施したこと

脳卒中になった人々がもう一度歩けるようにサポートしてくれるような歩行トレーニング機器の使用を検討した研究を検索した。以下の点に着目した。

・何人が自立して歩けるようになったか

・どれだけ速く歩けるようになったか

・6分間でどれだけの距離を歩けるようになったか

・何人が研究の途中で脱落したか

・何人死亡したか

無作為に治療群に割り付けられた研究を検索した。このような研究の方法(ランダム割り付け)は、治療効果について最も信頼性の高いエビデンスが得られるとされている。

わかったこと

脳卒中を発症し、再び歩けるようになった成人4,224人(平均年齢47~76歳)を対象とした101件の研究があった。研究では、歩行練習における電気機械的な機器またはロボットと理学療法の組み合わせの効果と、理学療法のみもしくは通常ケアの効果が比較された。ほとんどの研究では、トレーニング期間は3~4週間で、最短は10日間、最長は8週間であった。

理学療法または通常ケアと比べて、理学療法に歩行トレーニング機器を組み合わせると、トレーニングの終了時点で、

・より多くの人が自立して歩けるようになるだろう(51件の研究、2,148人の参加者)。

・平均の歩行速度は速くならないだろう(73件の研究、3,043人の参加者)。

・6分間で歩くことができる距離は増えない(42件の研究、1,966人の参加者)。

・研究の脱落者や死亡者数は増加も減少もしない(死亡は稀であった)(101件の研究、4,224人の参加者)。

もし9人の人が理学療法と機器を組み合わせた治療を受けると、トレーニング終了時点で自立して歩けるようになる人が(理学療法のみもしくは通常ケアのみを受けるのと比較して)さらに1人多くなるだろう。

追跡調査においては、歩行トレーニング機器と理学療法を併用しても、理学療法のみや通常ケアと比べて、歩行が自立する助けにはならないかもしれない。また、平均歩行速度や6分間で歩ける距離は増加しないだろう。

エビデンスの限界は?

結果の確実性は低から高程度である。多くの研究は、参加者数が少なく、質が低いものであった。そのため、いくつかの研究では、これらの機器の利点が実際よりも大きく感じられたかもしれない。

このレビューの更新状況

エビデンスは、2023年12月現在のものである。

Mehrholz J, Kugler J, Pohl M, Elsner B

月経前症候群(PMS)を治療するためのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アナログ製剤

1 day 6 hours ago
レビューの論点

月経前症候群(PMS)を治療するのに、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬および拮抗薬を使うことの利点とリスクは何か?

要点

- GnRH作動薬はプラセボと比べて、PMSの症状を改善するという信頼できるエビデンスがある。しかし、副作用として更年期障害のような症状がよく出るため、GnRH作動薬を服用している女性はプラセボを服用している女性よりも治療を中止する可能性が高かった。

- アドバック療法を加えたGnRH作動薬はプラセボと比べて、PMS症状が改善する可能性がある(中程度の信頼性)。アドバック療法を加えたGnRH作動薬はGnRH作動薬単独と比べて、PMS症状が改善するかどうか、あるいはアドバック療法で使うホルモンの投与量がPMS症状に影響を与えるかどうかについて判断するには、十分なエビデンスがなかった。

- GnRH作動薬に関して、アドバック療法を加え、長期間追跡した、ランダム化比較試験が必要である。

月経前症候群とは何か?

月経前症候群(PMS)は、卵巣から卵子が排卵された後に始まり、月経が終わるまでに消失する不調で、仕事、学校、社会活動、趣味、対人関係などの日常生活に大きな苦痛や障害をもたらす。さまざまな身体的、心理的、行動に関する症状からなる。GnRHアナログ製剤を使って排卵を止めれば、そのような症状は抑えられるかもしれない。一方、ホットフラッシュなどの更年期障害のような副作用や、長期的には骨粗鬆症を引き起こす可能性があるという欠点がある。これらの副作用を抑えるために、別のホルモン(多くの場合、エストロゲンまたはプロゲストーゲン)を治療に追加することができる。これをアドバック療法という。

知りたかったこと

ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アナログ製剤は、GnRHに似た構造を持つペプチドで、排卵を止めるために広く使われている。脳にある視床下部や下垂体に影響を与える薬である。GnRHアナログ製剤には、作動薬と拮抗薬の2種類がある。GnRH作動薬は、初めGnRHの産生を促すが、長く使うとGnRH産生を抑える。GnRH拮抗薬は、GnRH産生をすぐに抑える。これらの薬が効果的で安全かどうかを確かめたかった。ランダム化比較試験(RCT)という種類の研究を検索した。このタイプの試験では、人々は無作為に2つかそれ以上の群のいずれかに割り付けられ、結果のバイアスのリスクが少ない。

研究の特徴

PMSの治療にGnRHアナログ製剤を使った11件の研究(RCT)が見つかった。臨床的にPMSと診断された女性265人が登録されていた。これらのRCTを4つの比較に使った:アドバック療法なしのGnRH作動薬対プラセボ(9件、女性173人)、アドバック療法ありのGnRH作動薬対プラセボ(1件、女性31人)、GnRH作動薬で治療中のアドバック療法追加対プラセボ(2件、女性60人)、異なる用量のアドバック療法の比較(1件、女性15人)。QOLや骨粗鬆症などの長期的リスクを報告した研究はなかった。

主な結果

GnRH作動薬は、プラセボと比べて、PMSの症状全般を改善するという信頼できるエビデンスが得られた。しかし、GnRH作動薬を使った女性は、よくない副作用(更年期障害のような症状など)のために治療を中断する可能性が高い。

アドバック療法を加えたGnRH作動薬は、プラセボと比べて、全般的な症状が改善する可能性があることを示す、信頼度の低いエビデンスが得られた。一方、よくない副作用に関するエビデンスは不十分であった。

GnRH作動薬で治療中のアドバック療法の追加とプラセボとの比較、およびアドバック療法で使うホルモンのさまざまな用量に関するエビデンスは、 、最も効果があるのはどれかを判断するにはあまりにも不確実であった。

QOLや骨粗鬆症などの長期的リスクについて報告した研究はなかった。

エビデンスの限界

エビデンスの主な限界は、ほとんどの研究で対象となった女性の数が少ないことと、いくつかの研究で対象となった女性が自分がどの治療を受けているか分かっていたことである。GnRH作動薬については、アドバック療法なしとプラセボとを比べた結果は信頼できるが、他の3つの比較の結果はほとんど不確実である。

このエビデンスはどれくらい最新のものか?

このエビデンスは、2023年5月までに行われたデータベースの検索に基づいている。

Naheed B, Kuiper JH, O'Mahony F, O'Brien PMS

大麻使用障害の治療薬

1 day 6 hours ago
主な結果

現在の研究によれば、大麻使用障害に対するさまざまな医薬品の効果については不明である。

大麻使用障害とは何か?

大麻使用障害とは、大麻が健康、仕事、人間関係など生活に問題を引き起こしているにもかかわらず、大麻の使用をなかなかやめられない状態をいう。大麻の使用は比較的よくみられ、世界中に広まっている。大麻使用障害の治療に対する需要は、世界のほとんどの地域で増加している。いくつかの国では、大麻使用を犯罪とみなさない、または合法化する動きがあるため、この傾向は今後も続く可能性が高い。

大麻依存症はどのように治療されるのか?
  • 現在、大麻使用障害の治療法として推奨されているのは心理療法だけである。

  • 現在、大麻使用障害の治療に特化した治療はない。

知りたかったこと

大麻依存症の治療にどのような薬が有効で安全なのかを評価したかった。

実施したこと

多くの科学データベースを検索し、大麻使用障害の治療薬に関する臨床研究を探した。参加者が大麻使用障害を持っていると記述されている研究を対象とした。2種類以上の治療群のいずれかに無作為に割り付けられた研究を対象とした。その結果にどれだけ自信が持てるかを知るために、研究方法がどれだけ優れているかを評価した。使用された薬剤の種類によって研究をグループ分けして分析した。

わかったこと

3,201人が参加した37件のランダム化比較試験を特定した。

成人を対象とした研究では、参加者の平均年齢は22歳から41歳であった。追加の4件の研究では若年層のみを対象とした。ほとんどの研究(32件の研究)では、参加者のほとんどが男性であった。ほとんどの研究では、大麻依存症の参加者を一般集団から募集しているが、5件の研究では、うつ病(2件)、注意欠陥多動性障害(2件)、双極性障害(1件)など、大麻依存症と同時に精神疾患を有する参加者に焦点を当てている。ほとんどの研究(29件)は米国で行われ、オーストラリアで4件、イスラエルで2件、カナダで1件、イギリスで1件であった。

この研究では、大麻の禁断症状を軽減し、大麻使用の中止または減少を促進するために、以下のような幅広い医薬品が試験された:Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC、精神作用のある大麻の主成分)を含むカンナビノイド製剤、カンナビジオール(CBD、高揚感をもたらさない大麻の化合物)、「抗けいれん薬および気分安定薬」に属する医薬品(発作を予防し、てんかんを治療する薬)、N-アセチルシステイン(呼吸器障害やパラセタモール中毒の治療に使われる薬)、オキシトシンというホルモンやPF-04457845という薬(カンナビノイドが体内で分解される方法に影響を与える)。ほとんどの研究では、これらの薬の効果はプラセボ(有効な薬と同じように見えるが、有効成分を含まない見せかけの治療)の効果と比較された。

11件の研究は製造会社から薬剤の提供を受けており、製薬会社から資金提供を受けている研究はなかった。3件の研究では資金提供の報告がなかったか、資金提供の有無が不明であった。

主な結果

治療終了までに大麻使用を止めるには、THC製剤、CBD、N-アセチルシステイン、オキシトシン、PF-04457845はおそらく効果がなく、抗けいれん薬や気分安定薬の効果については不明である。

治療を完了するためには、CBD、抗けいれん薬、気分安定薬、N-アセチルシステイン、PF-04457845は効果がない可能性があり、THC製剤の効果については不明である。

THC製剤、カンナビジオール、N-アセチルシステイン、PF-04457845は、おそらくプラセボに比べて副作用(頭痛、吐き気、睡眠障害など)を引き起こす可能性は高くない。抗痙攣薬と気分安定薬で治療された参加者は、プラセボで治療された参加者よりも早期に試験を終了する可能性が高い。検査されたどの医薬品も、重篤な副作用(すなわち、医師の診察が必要なもの)の可能性を増加させるものではなかった。

エビデンスの限界

このレビューにおける結果の3分の1以下のエビデンスの質は中等度(30%)であり、いくつかのものについては低い(37%)または非常に低い(31%)であった。これは、各薬剤に関する研究が数件(1件から7件)しかなかったためである。各研究は参加者数が少なく、研究間の結果に矛盾があり(すなわち、介入による有益な効果を認めたものもあれば、効果なしまたは有害な効果を認めたものもある)、研究参加者が治療から脱落したことによるバイアスのリスクがあった。

このエビデンスの更新状況

このレビューは、以前のレビューの更新版である。エビデンスは、2024年5月現在のものである。

Spiga F, Parkhouse T, Tang VM., Savović J, Le Foll B, Nielsen S

集中治療室における混乱(せん妄)を管理するための運動療法にはどのような利益とリスクがあるか

1 day 6 hours ago
要点
  • せん妄を管理するための運動療法については、信頼性の高いエビデンス(科学的根拠)がないことから、無治療または通常の手当てと比べてどのような利益やリスクがあるかわからない。運動療法を行うとせん妄の持続期間が短縮され、集中治療室滞在期間の短縮につながることがあり、有害な副作用もない可能性がある。しかし、この分野ではさらなる研究が必要である。

  • 今後の研究では、これらの結果を裏付けることを目指すと共に、運動療法により、生活の質 (QOL)を向上させ、せん妄の重症化を抑え、認知機能(情報を学習、記憶、理解する能力)を高めることができるかどうかを調べるべきである。また、運動療法を投薬など他の治療と比較するべきである。

せん妄とは?

せん妄は、多くの患者が集中治療室において経験するありふれた症状である。発症に至る真の原因は完全には解明されていない。集中治療室にいる患者は、平常と異なる精神状態を見せることがあり、注意力が低下したり、思考回路が乱れたり、覚醒のレベルが変わったりする。これらはすべて、通常、集中治療室に入室してから数時間または数日以内に起こり、いずれも医学的な理由もなく、急激に変化したり、悪化したりする。集中治療室でせん妄が起こると、患者の治療や回復に影響することがある。また、患者の家族は、集中治療室でせん妄が起こると、不安、恐怖、無力感を覚えたり、動揺したりするため、せん妄がこの状況ではよくある症状で、一次的なものに過ぎないことを伝え、安心させる必要がある。

集中治療室におけるせん妄の管理方法

集中治療室におけるせん妄は、薬を使わない方法と投薬を併用して管理することができる。薬を使わない方法は、患者の回復を促すような支援的な環境を整えることに重点を置いている。これには、患者が今何時で自分がどこにいるかわかっているか確かめる、家族に面会に訪れるよう働きかける、患者が十分な睡眠を取るよう計らう、痛みがあればこれを管理する、患者の活動量の維持と自立回復に役立つゆるやかな運動を奨励するなどが含まれる。また、症状を悪化させる可能性があるため、身体的拘束を行うことは避け、鎮静剤の使用を制限することも重要である。投薬が必要なとき、医師は激しい興奮や苦痛を抑えるために抗精神病薬を処方することがある。しかし、こうした薬は、慎重に、必要な場合に限って使用される。

知りたかったこと

以下の項目を改善する上で、運動療法が通常の手当て、無治療、または投薬治療より優れているかを調べたかった。

  • 集中治療室でせん妄が続く期間

  • せん妄があって運動療法を受けている患者の生活の質 (QOL)

  • 全入院期間、集中治療室入室期間を短縮し、死亡率を下げるのに役立つかどうか

  • 運動療法による有害な副作用の有無

実施したこと

集中治療室に入室してせん妄が起こった人に対する運動療法と、通常の手当て、無治療、または投薬治療を比較調査した研究を探した。

研究結果を比較してまとめ、研究の方法や規模などの要素に基づいてエビデンス(科学的根拠)の信頼性を評価した。

わかったこと

集中治療室に入室してせん妄が起こった491人を対象とする4件の研究が見つかった。これらの研究は運動療法の利益を通常の手当てまたは無治療の場合と比較したものだった。運動療法と投薬治療を比較した研究はなかった。

運動療法はせん妄の発症期間を短縮する可能性があり、恐らく集中治療室入室期間が短くなる。運動療法には有害な副作用はないかもしれない。しかし、生活の質 (QOL)やせん妄の重症度を調べた研究はなかった。また、レビューの対象に含められた研究の中には運動療法と投薬治療を比較したものはなかった。

エビデンスの限界

すべての研究が本レビューで関心があったすべての事項についてデータを提供したわけではないこと、研究に参加した人がどの治療を受けているか知っていた可能性があること、またエビデンスはごく少数の症例に基づいていることから、運動療法を行うとせん妄の続く期間が短縮され、副作用もないことに関するエビデンスはあまり信頼できない。。

集中治療室入室期間の短縮を目指すせん妄管理において、運動療法の活用を支持するエビデンスの信頼性は中等度に留まる。ここでは、研究に参加した人は自分がどの治療を受けているか知っていたかもしないという懸念が信頼性レベルに影響した。それに加え、すべての研究が本レビューで関心があったすべての側面のデータを提供していたわけではない。

本エビデンスの更新状況

本エビデンスは2024年7月12日現在のものである。

Garegnani L, Ivaldi D, Burgos MA, Varela LB, Díaz Menai S, Rico S, Giménez ML, Escobar Liquitay CM, Franco JVA

頭頸部がん患者における放射線治療の有害事象のリスク予測にはどのような正常組織合併症確率(NTCP)モデルが利用可能か、またその質や予測性能はどの程度か?

1 day 6 hours ago
要点

° 頭頸部がん患者における放射線治療の有害事象を予測するために、多くのNTCPモデルが開発されているが、そのほとんどは十分に外部検証されていない。すなわち、元のモデル開発研究に含まれていない患者による試験がなされていないため、それらの実際の有害事象に対する予測精度については不明である。

° 元のモデル開発研究に加え、2件以上の研究によって検証されたモデルに関しても、その試験の質と報告された結果は不十分である。したがって、それらがどの程度有用であるかを判断することは困難である。

° 頭頸部がん領域におけるこの問題を調査するためには、より多くの、より良くデザインされた研究が必要である。

治療による有害事象発生の可能性は、どのようにして判断されるのか?

放射線治療により有害事象が発生する確率は、正常組織合併症確率(NTCP)モデルを用いて計算することができる。NTCPモデルは、患者、疾患、および治療に関する情報に基づいて、放射線治療による副作用のリスクを計算する。

何を調べようとしたのか?

放射線治療は、頭頸部がんの主要な治療方法である。しかし、放射線治療は頭頸部領域の健康な、時には重要な部位をも被曝させ得る。正常な臓器が損傷した結果、例えば唾液の分泌が阻害されるなど、頭頸部がん患者のQOL(生活の質)に重要な影響を及ぼす可能性がある。腫瘍の制御と放射線治療による有害事象の予防との最適なバランスを達成するためには、NTCPモデルが有用である。NTCPモデルは、患者、疾患、および治療に関する情報に基づいて、放射線治療による有害事象のリスクを予測する。頭頸部がん患者を対象としたNTCPモデルは相当数存在する。本レビューでは、研究デザイン、試験の実施、および解析(すなわち、バイアスのリスク)の質、そしてこれらのモデルの放射線治療による有害事象リスク予測の正確性についての評価を行った。

何を行ったのか?

頭頸部がん患者におけるNTCPモデルの開発や検証を行った研究について検索を行った。

何を見つけたのか?

レビューに含まれた合計143件の論文中、140,767人の参加者から開発された592モデルの質のほとんどは不十分であった。また、これらのモデルの81%において、新たな患者を対象にした予測性能が試験されていなかった。残りの19%のモデルについては、合計41件の論文、34,304人の参加者に対して152件の外部検証が行われていた。外部検証が2回以上行われたモデルはわずか9つであった。これらのモデルは、参加者における結果(評価項目)の有無を識別するのは容易であった。しかし、実際の結果の評価や報告がされていないものもあったため、モデルによる予測が実際の結果と一致しているかどうかは、多くの場合不明であった。全体として、ほとんどの研究の質は低かった。

本エビデンスはいつのものか?

2024年1月8日時点におけるエビデンスである。

Takada T, Tambas M, Clementel E, Leeuwenberg A, Sharabiani M, Damen JAAG, Dunias ZS, Nauta JF, Idema DL, Choi J, Meijerink LM, Langendijk JA, Moons KG, Schuit E

SARS-CoV-2の異なる検査方法による発症、入院、および死亡を防ぐ上での利点と欠点は何か?

1 day 6 hours ago
要点
  • 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の検査が、疾病の予防、入院の回避、あるいは死亡の防止に寄与するのか、または妨げになるのかについて検討した研究はほとんどない。

  • エビデンスが弱いため、検査が発症の予防に効果的かどうかは不明である。

  • 異なる種類のSARS-CoV-2の検査方法が、発症や、入院、あるいは死亡を防止することに対しての有益性や有害性を明確に示す研究は不十分である。

SARS-CoV-2とは何か?

2019年12月にSARS-CoV-2と呼ばれる新しいウイルスが中国で発見され、2024年5月までに7億7,500万人がCOVID-19に感染し、700万人以上が死亡した。このウイルスの検査を行うことで、感染者の増加時期を医療従事者が把握し、他者を守るための迅速な対応を行うことができる。

知りたかったこと

異なるSARS-CoV-2検査法が、発症や入院、あるいは死亡数の減少にどの程度有効かについて調査を行った。また、SARS-CoV-2検査による有害事象についても評価を行った。

実施したこと

参加者の症状の有無を問わず、異なるSARS-CoV-2の検査方法を比較した研究を検索し、結果をまとめた。主要な比較項目を事前に決定し、それらの結果を提示した。また、研究の実施方法や参加者数などを基に、エビデンスの確実性を評価した。

わかったこと

合計13,312,327人の参加者を対象とした21件の研究が見つかり、これらの研究では様々なSARS-CoV-2検査の利益と有害性を検討した。そのうち設定された結果を評価していたのは合計190,821人の参加者を含む4件の研究のみであった。

主な結果

イスラエルの長期療養施設で実施された1件の研究では、週1回のSARS-CoV-2検査が入院者数や死亡者数に及ぼす影響を、検査群と非検査群、標準治療群、通常診療群とで比較を行った。しかしこの研究では、COVID-19が回避された数や、検査に関連した重大な有害事象については評価していなかった。また、検査方法間の比較において、これらの結果を評価した研究は存在しなかった。

検査群に対する非検査群、標準治療群または通常診療群における利益と有害性

週1回のSARS-CoV-2検査の効果を非検査群と比較した1件の研究に基づくと、入院者数および死亡数に関する結果は非常に不確実である。

エビデンスの限界

発見された研究は少数であり、検査群と非検査群を比較した2種類の結果からのエビデンスは、1件のみの研究に基づいていたが、この研究は実施方法に問題があり、研究目的との整合性も十分ではなかったため、結果の妥当性や正確性には疑念が残る。他の要因が交絡して結果に影響を及ぼした可能性や、結果の測定方法に欠陥があった可能性もあり、結果は完全に公平または正確ではないかもしれない。したがって、今後の研究によって今回の結論は変わることと思われる。

本エビデンスはいつのものか?

2024年10月7日時点におけるエビデンスである。

Saif-Ur-Rahman K, Nurdin N, Movsisyan A, Kothari K, Gleeson C, Conway T, Tierney M, Taneri PE, Mulholland D, Tricco AC, Dinnes J, Devane D

薬物療法と非薬物療法は、パーキンソン病をもつ人々の衝動的・強迫的行動の軽減に役立つか?

1 day 6 hours ago
要点
  • 薬物療法や非薬物療法がパーキンソン病患者の衝動的・強迫的行動の軽減に役立つかどうかは、現在利用可能なエビデンスが限られており不確かであるため、わかっていない。

  • 最良の治療法について結論を出すためには、より多くの対象者について、生じうるさまざまな行動を含めた調査研究が必要である。

衝動的・強迫的行動(ICBs)とは何か?

パーキンソン病をもつ人々の中には、衝動的・強迫的行動(ICBs)をおこす人がいる。ICBsは、コントロールが難しく、問題を引き起こしても繰り返される行動である。ICBsの例としては、以下のようなものがある:

  • 過度なギャンブル;

  • コントロールできない浪費や買い物;

  • 過食やむちゃ食い;

  • 性欲の亢進(性的思考や性的行動の増加);

  • その他、物を分類したり分解したりするといった、反復的で、過剰で、一般的でない行動。

ICBsはどのように治療されるのか?

パーキンソン病患者におけるICBsの最良の治療法については、十分な明確なエビデンスがない。パーキンソン病の治療に使われる薬の中には、ICBsを悪化させるものがあるため、医師はしばしば投与量を減らすが、それはパーキンソン病患者が有する運動障害の再発や悪化につながる可能性がある。

パーキンソン病をもつ人々のICBsを改善する治療法には、薬物療法と非薬物療法がある。薬物療法は、脳のさまざまな部位のドーパミンレベルのバランスをとることで、役立つ可能性がある。ドーパミンは脳の報酬系に関与しているため、「気分の良い」化学物質と呼ばれることもある。認知行動療法(CBT)や非侵襲的脳刺激療法などの非薬物療法は、衝動性を管理する脳の能力を強化することによって、自己コントロールや意思決定を改善することを目的としている。

知りたかったこと

パーキンソン病患者において、ICBsの頻度と重症度を減少させ、QOLを改善し、ICBsに関連するその他の症状を改善する薬や薬以外の治療法(生活習慣の改善、運動、カウンセリング、行動介入を含む)があるかどうかを知りたいと考えた。

実施したこと

パーキンソン病患者において、上記のいずれかの積極的治療(薬物療法または非薬物療法)とプラセボ治療(すなわち不活性薬または「ダミー(偽の)」の薬)または無治療を比較した研究を検索した。

研究結果を比較・要約し、研究方法や研究規模などの要因に基づいて、エビデンスの信頼性を評価した。

わかったこと

合計151人の参加者を対象とした4件の研究が見つかった。研究に参加した人々の平均年齢は、約58歳から61歳であった。参加者の24%から32%が女性だった。3件の研究ではそれぞれ、アマンタジン、ナルトレキソン、クロニジンという3種類の薬について、プラセボ治療と比較試験を行っていた。1件の研究では、認知行動療法(CBT)について検討していた。

これらの研究は異なる治療法について検証しており、参加者の数も少なかったため、結果を組み合わせて、より信頼性の高い結論を得ることはできなかった。

主な結果

アマンタジン 対 プラセボ

- この比較を行った1件の研究では、本レビューで関心を持っていたアウトカムのほとんどが測定されていなかった。 - しかし、プラセボと比較して、治療が望ましくない有害な事象を引き起こしたかどうかは評価していた。2群間に差があるかどうかについてのエビデンスは、非常に不確かであった。

ナルトレキソン対プラセボ

・ プラセボと比較して、ナルトレキソンはICBsの重症度に対して、ほとんどあるいは全く差がないかもしれない。 ・ 望ましくない有害事象に対するナルトレキソンの効果についてのエビデンスは、非常に不確かであった。

クロニジン対プラセボ

・ ICBsの頻度と重症度、望ましくない有害事象、QOLの変化、抑うつや不安など、本レビューで関心のあるすべてのアウトカムについて、クロニジンの効果に関するエビデンスは、非常に不確かであった。

認知行動療法(CBT) 対 治療なし

- CBTはICBsの頻度や重症度に、ほとんどあるいは全く変化を与えないかもしれない。

エビデンスの限界

参加者数の少ないいくつかの研究に限られていたため、ほとんどのエビデンスについて確信をもつことができなかった。また、すべての研究が、本レビューのテーマに関する情報を提供しているわけでもなかった。

本エビデンスはいつのものか?

2025年6月13日までに発表されたエビデンスを検討した。

Mantovani E, Martini A, Purgato M, Tamburin S

妊娠中や授乳中の女性または乳幼児にビタミンD療法を行うと小児喘息を予防できるか?

1 day 6 hours ago
要点

・妊娠中に高用量のビタミンDを処方された女性の子どもは、ビタミンDを服用しなかった母親の子どもと比べて、喘鳴(下気道のむくみ、炎症、または収縮ゆえに、息を吐くときにヒューヒュー音がすること)が起こりにくい。

・乳幼児期にビタミンD療法を行っても喘息や喘鳴を予防する効果はほとんどない可能性があるが、これらの結果は確かではない。

・妊娠中や授乳中の女性または幼児へのビタミンD療法の望ましくない作用に関するエビデンス(科学的根拠)も非常に不確かである。

背景

喘息は小児期によく見られる肺疾患である。喘息のある子どもは、呼吸器に炎症が起こり、粘液が分泌されて、気道が狭くなるために、息苦しさ、喘鳴、咳の発作を繰り返し経験する。アトピー性皮膚炎(慢性の炎症性皮膚疾患)、アレルゲン(アレルギーの原因物質)への感作(過剰な反応)、頻発する呼吸器感染症は、喘息の発症につながる可能性がある。ビタミンDは免疫系に影響を与える必須栄養素である。これまでの研究で、ビタミンDの不足とアレルギー疾患のリスク上昇の間で関連性が示唆されている。

知りたかったこと

出生後の早い時期にビタミンD療法を行うと、(a)小児喘息、喘鳴またはその両方、そして(b)アトピー性皮膚炎、呼吸器感染症、アレルゲンへの感作、気道の炎症など、小児喘息のリスク要因を予防するのに役立つかどうかを調べたかった。

また、ビタミンD療法がなんらかの望ましくない作用に関与したかも調べたかった。

実施したこと

以下のいずれかを比較した研究を探した。

・妊娠中や授乳中の女性に対するすべてのビタミンD療法とプラセボ(不活性な「偽薬」)または無治療
・乳幼児に対するすべてのビタミンD療法とプラセボまたは無治療
・妊娠中や授乳中の女性への高用量のビタミンDと低用量または標準用量のビタミンD(400 IU/日またはそれより少ない量)の投与
・乳幼児への高用量のビタミンDと低用量または標準用量のビタミンD(400 IU/日またはそれより少ない量)の投与

本レビューで関心のあるアウトカム(評価項目)は、小児喘息、喘鳴、アトピー性皮膚炎、呼吸器感染症、アレルギー感作、気道の炎症だった。

研究結果を比較、要約し、研究方法や参加人数などの要素に基づいてエビデンスの信頼性を評価した。

わかったこと

合計10,611人の妊婦、乳児、母親と乳児のペア、5歳以下の幼児が参加した18件の研究が見つかった。4件の研究で妊婦へのビタミンD投与とプラセボまたは無治療を、5件の研究で乳幼児へのビタミンD投与とプラセボまたは無治療を、4件の研究で妊婦への高用量と低用量のビタミンD投与を、また7件の研究で乳幼児への高用量と低用量のビタミンD投与を比較していた。研究は世界各地で実施されたが、多くは高所得国において行われた。最も規模の大きい研究では3,046人、最も規模の小さい研究では50人が対象となった。ビタミンD治療の期間は28日から2年までで、大半の研究では6カ月以下である。

主な結果

妊娠中のビタミンD療法はいずれも小児喘息の予防に役立つ可能性があり(236人が参加した研究1件)、妊娠中の高用量のビタミンD療法は小児の喘鳴を予防するのに役立つ可能性が高い(1,439人が参加した3件の研究)。

乳幼児期にビタミンD療法を行っても、用量や比較の対象に関わらず、喘息や喘鳴への効果はほとんどないかもしれないが、これらの結果は確かではない。乳幼児期に高用量のビタミンD療法を行うと、呼吸器感染症の防止に役立つ可能性がある(2,385人が参加した6件の研究)。

アトピー性皮膚炎、アレルギー感作、気道の炎症のバイオマーカーについては、妊婦または乳幼児にビタミンD療法を行っても、その用量や比較の対象に関わらず、ほとんど効果はないかもしれない。

妊婦や乳幼児にビタミンD療法を行うとなんらかの望ましくない作用があるかどうかは、研究にはこうした作用について限られた情報しか報告がなかったため、不明である。

エビデンスの限界

妊娠中の介入では、喘鳴と喘息に対する高用量ビタミンD療法の効果についての信頼性は中等度である。(プラセボや無治療と比較した)あらゆるビタミンD療法の喘息への効果については、エビデンスを裏付けるのが1件の小規模な研究の結果のみであるため、信頼性はより低い。いずれにせよ、これらの結果は出産前の妊娠中期および後期に行われたビタミンD療法に限られ、女性が受胎した時期や妊娠初期については明らかではない。

乳幼児への介入では、用量に関わらず、いかなるビタミンDのいかなる評価項目への効果についても、レビュー結果の信頼性は低い。

望ましくない作用に関するレビューの結果は、エビデンスがごく少数の症例にしか基づいておらず、主な望ましくない作用を評価した研究が十分にないことから、信頼性が極めて低い。

本エビデンスはいつのものか?

エビデンスは、2023年10月現在のものである。

Patchen BK, Best CM, Boiteau J, Solvik BS, Vonderschmidt A, Xu J, Cohen RT, Cassano PA

母親と新生児がすぐに、あるいは早期に母子接触を行うことの利点について、どのようなことが知られているか?

3 weeks 4 days ago
要点
  • 生後1時間以内に新生児と早期母子接触を行った母親は、1ヵ月後まで完全母乳育児であり、6週間後から6ヵ月後までの期間、母乳のみで育てる可能性が高い。

  • 母親と新生児の早期母子接触は、新生児の体温を安定させ、血糖値を上昇させることで、新生児が胎外の生活に適応するのを助けると考えられる。また、呼吸や心拍数にも効果がある可能性がある。

  • 母子接触を行うことで、胎盤娩出までの時間にほとんど差はない。経腟分娩後の出血量への効果は不明である。

レビューの論点

世界保健機関(WHO)や国連児童基金(ユニセフ)などの世界的な主要な保健団体は、出生直後の新生児は母親の素肌の胸の上で直接抱くべきだと勧告している。新生児は裸で、少なくとも1時間、理想的には最初の授乳が終わるまで、中断することなく母親の素肌の素肌の上で抱かれるべきである。これを早期母子接触という。しかし、多くの医療現場では、新生児を母親から離したり、タオルで包んだり、服を着せたり、ベビーベッドやインファントウォーマーの下に寝かせたりするのが一般的である。低所得国や低中所得国では、早期母子接触は一般的ではない。これは母親の母乳育児を成功に導く実践であり、早期母子接触の実施割合が低いことが、母乳育児の実践状況が国により異なる理由の一つかもしれない。

知りたかったこと

出生直後の早期母子接触が、母乳育児の期間や完全母乳育児、そして新生児の胎外生活への移行にどのような影響を与えるかについて検討したい考えた。特に、早期母子接触が標準的なケアよりも以下のアウトカムについて改善する効果があるかどうかを知りたかった:

  • 完全母乳育児;

  • 児の体温;

  • 児の血糖値;

  • 児の呼吸数と心拍数;

  • 胎盤娩出までの時間;

  • 経膣分娩後の母体出血

実施したこと

主要なデータベースにて、出生直後(出生後10分未満に開始)の早期母子接触および早期(出生後10分~24時間の間)の母子接触に関するランダム化研究を検索した。ランダム化比較試験では、研究参加者を無作為に2つ以上のグループに分け、そのグループが類似していることを確認した。結果を要約し、研究規模や方法などの要因に基づいて、その結果に対する信頼性を評価した。

わかったこと

7,290組の母子を対象とした69の研究を特定した。ほとんどの研究では、健康な正期産児を出産した母親を対象に、出生直後(出生後10分未満に開始)の早期母子接触と標準的な病院でのケアを比較していた。15件の研究では、母親は帝王切開で出産し、10の研究では、新生児は健康であったが早産(妊娠34週から37週以前)であった。32件の研究が高所得国で、25件の研究が高中所得国だった。12件の研究がインド、ネパール、パキスタン、ベトナム、ザンビアを含む低中所得国で実施された。低所得国で実施された研究はなかった。

主な結果

出生直後に早期母子接触を行った母親は、退院時および出生後1ヵ月までに完全母乳育児(12件の研究、1,556組の母子)であることや、出生後6週間から6ヵ月まで(11件の研究、1135組の母子)母乳のみで育てる可能性が高い。

出生直後に早期母子接触を行った新生児は、出生後30分から2.5時間で体温が高くなる可能性があるが、その差は臨床的に意味のあるものではない(11件の研究、1,349人の新生児)。早期母子接触は、児の血糖値を上昇させ(3件の研究、144人の新生児)、呼吸と心拍数を改善する(2件の研究、81人の新生児)可能性がある。早期母子接触は、胎盤娩出までの時間(4件の研究、450人)や経膣分娩後の母体出血(2件の研究、143人)には、ほとんど効果はないかもしれないが、それらの母体出血に関する結果は非常に不確実である。

エビデンスの限界は?

多くの結果については、中等度のエビデンスの確実性であり、呼吸と心拍数、胎盤娩出までの時間についてはほぼ確実性がなく、母体出血については確実ではない。早期母子接触、母乳育児、その他の介入、標準的なケアに関する記述や定義は、研究間で一貫していなかった。さらに、母親とスタッフは、どの母親が早期母子接触を受けているかが分かっており、結果に影響した可能性もある。最後に、多くの研究は小規模で、参加した母親と新生児は100人未満であった。

エビデンスの更新状況

本レビューは、前回のレビューを更新したものである。2025年3月7日時点のエビデンスである。

Moore ER, Brimdyr K, Blair A, Jonas W, Lilliesköld S, Svensson K, Ahmed AH, Bastarache LR, Crenshaw JT, Giugliani ER J, Grady JE, Zakarija-Grkovic I, Haider R, Hill RR, Kagawa MN, Mbalinda SN, Stevens J, Takahashi Y, Cadwell K

軽症高血圧に対する薬物療法の有益性と有害性は何か?

4 weeks ago
要点
  • 心血管疾患(心筋梗塞など)やその他の関連リスク(糖尿病など)を有さない軽症高血圧患者において、降圧薬は死亡リスクや主要な心血管(心臓や血管)疾患のリスクを低減しない可能性がある。

  • 降圧薬は脳卒中のリスクを低減する可能性があるが、一方で試験からの途中離脱につながる有害事象のリスクを増加させる可能性がある。

  • 軽症高血圧はあるが心血管疾患や糖尿病などのその他の健康関連リスクを有さない人々における降圧薬の効果を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

高血圧とは何か?

高血圧とは、持続的に血圧が高い状態を指す。

高血圧はどのように治療されているか?

高血圧の治療は、その重症度および併存疾患によって異なるが、生活習慣の改善(食事の改善や定期的な身体活動など)が基本であり、薬物療法も一般的に行われる。

知りたかったことは何か?

軽症高血圧(収縮期血圧140〜159mmHg、拡張期血圧90〜99mmHg)で、主要な心血管疾患やその他の関連リスクを有さない人における降圧薬の利益とリスクを明らかにすることを目的とした。

何を行ったのか?

軽症高血圧患者における降圧薬の有効性を検討した研究を系統的に検索し、死亡および主要な心血管疾患(脳卒中や心筋梗塞など)のリスクが低減するかについて検討を行った。また、有害事象のリスクについても評価を行った。研究結果を比較、要約し、研究の方法や規模などの要因に基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。

何を見つけたのか?

合計9,124人の参加者を対象とした5件の研究が含まれた(降圧薬群4,593例、プラセボまたは無治療群4,531例)。結果として、降圧薬は死亡や主要な心血管疾患のリスクを低減しない可能性が示された。降圧薬は脳卒中のリスクを低減する可能性があるが、一方で試験からの途中離脱につながる有害事象のリスクを増加させる可能性がある。

主な結果

軽症高血圧で、他の心疾患や心血管疾患リスクを増大させる併存疾患を有さない参加者おける降圧薬の使用は、脳卒中のリスク低下という利益と、有害事象の発生という不利益を天秤にかけて考慮する必要がある。

エビデンスの限界は何か?

対象としたい集団全体を十分にカバーしていないこと、各研究の規模や数が小さいことから、本結果の確実性に限界がある。脳卒中リスクの低下を示した1件の研究では腎疾患患者を対象としていたため、軽症高血圧患者全体に適用できるかは不明である。降圧薬の有害事象に関して報告されていたのは1件の研究のみであった。

本エビデンスはいつのものか?

2024年6月現在におけるエビデンスである。

Wang D, Wright JM, Adams SP, Cundiff DK, Gueyffier F, Grenet G, Ambasta A

小児のクローン病の治療に腫瘍壊死因子α阻害薬を用いると、どのような利益とリスクがあるか

4 weeks ago
要点

インフリキシマブを用いると、臨床的寛解(目立った症状がなくなること)および内視鏡的寛解(大腸の検査で炎症が認められなくなること)に向かう可能性が従来の治療薬と比べて僅かに高くなるかもしれない。

クローン病を患う小児において寛解を目指す療法として腫瘍壊死因子α阻害薬(抗TNF製剤)の使用を支持する限定的なエビデンス(科学的根拠)がある。

抗TNF製剤と他の治療薬を比較し、同製剤に関して、投与するタイミング、用量、その他の詳細な情報を調べるために、適切なデザインに基づくより多くの研究が必要である。

小児のクローン病にはどのような治療法があるか

小児のクローン病の初期治療の選択肢としては、ステロイド剤、経腸栄養剤(必要な栄養を含む特別な流動食)、免疫調整薬(免疫系の活動を変える物質)また場合によっては抗TNF製剤のような生物製剤(生物から作られる薬剤)がある。

小児のクローン病は重症化しやすく、炎症が広がることもあるため、抗TNF製剤を使用することが多い。

何を調べようとしたのか?

調べたかったことは、小児クローン病の寛解導入療法に用いられる抗TNF製剤が安全で有効かどうかである。寛解導入療法とは初期段階で炎症とそれに伴う諸症状を抑え、寛解(病気の症状が軽減または完全に消失した状態)に向かわせるために用いられる投薬治療を指す。

実施したこと

クローン病を患う小児を対象として、寛解導入療法に用いる抗TNF製剤を従来の治療(ステロイド剤または経腸栄養療法)、プラセボ(疑似薬)、または無治療と比較して調べた研究を探した。研究の結果をまとめ、研究方法や規模などの要素に基づいてエビデンス(科学的根拠)の信頼性を評価した。

わかったこと

見つかった研究は1件のみで、クローン病の第一選択薬(病気を管理する上で最初に使う薬)としてインフリキシマブ(抗TNF製剤)による治療を受けた(50人)、または従来の治療法(ステロイド剤[経口プレドニゾロン]または完全経腸栄養療法)を処方された(50人)3~17歳の小児合計100人を対象としたものである。この研究は欧州の3ヵ国で実施された。対象となった小児は一年間追跡調査を受けた。

その結果、インフリキシマブを用いると、臨床的寛解(目立った症状がなくなること)と内視鏡的寛解(大腸検査で炎症が見られなくなること)に向かう可能性が従来の治療法より僅かに高くなるかもしれないことが示された。本レビューに含められたこの研究では、クローン病に関連したいかなる原因による併存疾患や死亡についても、重いまたは軽い副作用についても調査していない。

エビデンスの限界は何か?

研究に参加した人はどの治療を受けていたか知っていた可能性があること、レビューの対象に含められた研究が小規模であること、また結果について確信を得るのに十分な数の研究がないことから、エビデンスの信頼性は非常に低い。

活動期クローン病(クローン病の症状が出ている)の小児を対象に抗TNF製剤による治療の利益と害を従来型の治療と比較して調査する、より規模の大きい研究が複数必要である。こうした研究には、重要な評価項目として、併存疾患、死亡例、重い副作用を含めるべきである。

本レビューの更新状況

エビデンスは、2024年6月現在のものである。

Sepúlveda A, de la Piedra Bustamante MJ, Orlanski-Meyer E, Villarroel del Pino LA, Olivares Labbe MT, Gana JC

第1群肺動脈性肺高血圧症の人には、どのような薬を単独または組合せて用いるのが最も適しているか、またこうした薬には重い副作用があるか?

4 weeks ago
要点
  • 第1群肺動脈性肺高血圧症の人には、エンドセリン受容体拮抗薬の単剤療法よりも併用療法の方が臨床増悪(病状が悪化すること)の予防に有効で、入院率も減少する可能性が高い。しかし、併用療法がホスホジエステラーゼ5阻害薬の単剤療法よりも臨床増悪や入院を予防する上で利益が大きいかどうかは不確かである。

  • いずれかの薬の単剤療法と比べて、併用療法を受けている人の身体作業を行う能力が改善されたり、死亡率が低下するという強力なエビデンスもない。

  • 併用療法を受けている人も一方の薬のみを使用している人も、同様の重い副作用が見られ、治療を中断する傾向も大体同じだった。併用療法ではホスホジエステラーゼ5阻害薬の単剤療法と比べて、治療を中断する人の数が僅かに少なかった。

第1群肺動脈性肺高血圧とは何か?

肺高血圧症とは肺の動脈の血圧が高い状態をいう。これは5種類(第1群から第5群まで)に分類され、それぞれ異なる治療方法が必要である。第1群肺動脈性肺高血圧は稀で、肺の他の部分には問題がない肺動脈に特異的な高血圧が含まれる。これは遺伝、薬剤、または他の疾患などの要因により引き起こされる。第1群肺動脈性肺高血圧を放置したり、治療が適切でなかったりすると、生活の質(QOL)が低下し、入院のリスクが上がり、死亡率が高まる可能性がある。

第1群肺動脈性肺高血圧にはどのような治療法があるか

第1群肺動脈性肺高血圧の治療薬は肺の血管の拡張を促す作用があり、その結果として肺動脈の血圧が下がる。エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、プロスタサイクリン類似体と呼ばれる薬は、単剤療法または併用療法で用いることができる。ガイドラインによると、一般的な組合せとして、エンドセリン受容体拮抗薬とホスホジエステラーゼ5阻害薬がある。

何を調べようとしたのか?

第1群肺動脈性肺高血圧の治療において、エンドセリン受容体拮抗薬とホスホジエステラーゼ5阻害薬は、単独または併用でどれだけ効果があるか調べたかった。そして、どれだけの人が病状が悪くなったり(増悪と言われる状況)、入院が必要となったり、死亡したのか知りたかった。また、治療が原因の重い副作用があったかどうかも知りたかった。

実施したこと

第1群肺動脈性肺高血圧症の人を対象に、エンドセリン受容体拮抗薬のみ、ホスホジエステラーゼ5阻害薬のみ、そしてエンドセリン受容体拮抗薬とホスホジエステラーゼ5阻害薬の併用(併用療法)を比較した研究を探した。個々の研究をチェックして、研究方法やサイズなどの要素を考慮しつつ、公正で信頼できるものであるか確認した。

わかったこと

1807人を約16週間にわたって経過観察した研究9件が見つかった。

併用療法ではエンドセリン受容体拮抗薬の単剤療法に比べて病状増悪が少なく、入院のリスクが低下する可能性がある。しかし、併用療法が病気の悪化や入院を防ぐ上でホスホジエステラーゼ5阻害薬の単剤療法より効果が大きいかどうかは不明である。また、エンドセリン受容体拮抗薬またはホスホジエステラーゼ5阻害薬の単剤療法と比べて、併用療法を受けた人の身体作業を行う能力が改善されたり、死亡例が減るという強力なエビデンスはなかった。重い副作用は、併用療法でも単剤療法でも同程度だった。併用療法ではホスホジエステラーゼ5阻害薬による単剤療法と比べて治療を中断する人の数が僅かに少なかった。

エビデンスの限界は何か?

死亡例を報告しなかった研究もあるため、これに関して確信をもって結論を出すのは難しい。併用療法と単剤療法の比較に関しては、いくつかの研究から多くの人が離脱したため、これが結果に影響を与えた可能性がある。こうした側面につき理解を深めるには、より一層の研究が必要かもしれない。

このエビデンスの更新状況

本エビデンスは2024年3月13日現在のものである。

Oba Y, Maduke T, Fakhouri EW, Goite Y

乾癬性関節炎の人に対するTNF阻害薬の利益と有害性は何か?

1 month ago
主要メッセージ

腫瘍壊死因子阻害薬(TNFi)は、炎症を軽減するのに役立つ薬剤群であり、第一選択薬(診断されたら最初に処方される治療薬)である免疫抑制剤(メトトレキサートなど、過剰な免疫反応を抑える薬剤)の治療で効果が得られなかった乾癬性関節炎の人においては、プラセボ(活性成分を含まない薬または「偽」の薬)より効果があるとされる。

TNF阻害薬と第二選択薬(第一選択薬で治療効果不十分な場合に次に使用する薬)の免疫抑制剤を比較する質の高い研究、および第二選択薬の免疫抑制剤治療で効果が得られなかった乾癬性関節炎の人におけるTNFiの効果を評価する研究が必要である。

乾癬性関節炎とは何か?

乾癬性関節炎は、関節に炎症が起こる慢性的(長期にわたる治療、症状コントロール等が必要)な炎症性疾患で、乾癬という炎症性の皮膚疾患がある人の約3分の1にみられる。乾癬性関節炎の原因は完全には解明されていない。関節内および関節周囲の組織の炎症により関節や腱の痛み、腫れ、こわばりの症状を引き起こす。乾癬性関節炎を治療せずに放置すると(症状が進行し)、身体障害を引き起こし、生活の質を低下させる。

乾癬性関節炎はどのように治療されるのか?

乾癬性関節炎は、理学療法、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)、副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)、および疾患修飾性抗炎症薬 (疾患修飾性抗リウマチ薬、DMARDs) と呼ばれる免疫抑制剤で治療され、医師が最も患者 (体) の負担の少ない治療薬から始め、必要に応じて (効果不十分な場合) 徐々により複雑な治療 (異なる種類の治療薬または生物学的製剤への切り替えを行う) に移行する段階的アプローチ (症状、病変部位、症状の進行度に合わせて薬を選択する) に基づき治療を進めていく。DMARDsは、3つに分類される: csDMARDs(例.メトトレキサート)、bDMARDs(例.TNFi、イキセキズマブ)、tsDMARDs(例.ウパダシチニブ)。

TNFiは腫瘍壊死因子(TNF)という(炎症を引き起こす)体内蛋白質を選択的に阻害する。TNFは、乾癬性関節炎における関節や皮膚の長期的(慢性的)な炎症に深く関わっている。したがって、TNFiでTNFを標的とすると炎症を軽減し、関連する症状が改善する可能性がある。

知りたかったこと

成人の乾癬性関節炎の治療において、TNFiがプラセボ、理学療法、NSAIDs、ステロイド、および他の免疫抑制剤よりも優れているかどうかを調べたかった。特に、臨床症状(関節の腫れや痛みなど)の改善、炎症のコントロール(疾患活動性)、身体機能(日常生活における動作)、健康関連の生活の質、画像検査による障害進行度(X線画像上で確認できる骨や関節の変化や損傷)、重篤な副作用、および副作用による治療中断などに関心があった。

実施したこと

TNFi をプラセボまたは他の乾癬性関節炎の治療薬と比較した研究を検索した。研究は以下の研究対象者集団に基づいて分類した: 免疫抑制剤による治療を受けたことがない参加者、csDMARDsによる治療で効果不十分であった参加者、bDMARDsまたはtsDMARDsによる治療で効果不十分であった参加者。

わかったこと

乾癬性関節炎のある7857人の参加者を対象とした25件の研究が見つかった。最も大規模な研究では成人1282人、最も小規模な研究では成人47人が含まれていた。研究は、ヨーロッパ、北米、アジア、オーストラリア、南アフリカ、南米で実施された。ほとんどの研究が、csDMARDsによる治療で効果不十分であった参加者を対象としていた。

プラセボと比較した場合:

1000人あたりでみると359人多く(プラセボ群との差)の参加者が、治療開始後12週目の時点でTNFi治療による臨床的な改善を報告した

• 1000人あたり436人がTNFi治療による臨床的改善を報告した。
• 1000人あたり77人がプラセボ治療による臨床的改善を報告した。

1000人あたりでみると258人多くの参加者が、試験開始後24週目の時点でTNFi治療により症状のコントロールが良好であった

• 1000人あたり351人がTNFi治療で症状のコントロールが良好であった。
• 1000人あたり93人がプラセボ治療で症状のコントロールが良好であった。

試験開始後24週目の時点で身体機能を0から3段階(0が機能障害なし)で測定したところ、TNFi群で0.33ポイント高かった

• TNFi群では身体機能が0.47ポイント改善した。
• プラセボ群では身体機能が0.14ポイント改善した。

試験開始後24週目の時点で生活の質を0から100までのスケール(100が最高スコア)で測定したところ、TNFi群で生活の質が3.29ポイント高かった

• TNFi 群では生活の質が5.7ポイント改善した。
• プラセボ群では生活の質が2.4ポイント改善した。

試験開始後24週目の時点で放射線画像 (X線写真など) 上で確認できる損傷度を0から528までのスケール (0が最高スコア、画像上で損傷なし) で測定したところ、TNFi治療により0.37ポイント改善した

• TNFi 群は放射線画像上で確認できる損傷度が0.12ポイント改善した。
• プラセボ群では放射線画像上で確認できる損傷度が0.25ポイント悪化した。

TNFi治療はプラセボ治療と比較して重篤な副作用を経験した参加者の数に差はなかった

• TNFi およびプラセボの両群で、1000人あたり31人が副作用を経験した。

TNFi治療では、1000人あたりでみると10人多い参加者が副作用により治療を中断した

• 1000人あたり28人がTNFi治療を中止した。
• 1000人あたり18人がプラセボ治療を中止した。

免疫抑制剤による治療を受けたことがない参加者では、TNFiはメトトレキサートと比較して、大きな臨床的改善、より良好な疾患症状のコントロールができた可能性があるが、身体機能に差はなく、放射線画像上で確認できる損傷度をわずかに減少させただけだった。健康関連の生活の質への影響を調査した研究はなかった。TNFiとメトトレキサートの間に有害性の差があるかどうかは不明である。

エビデンスの限界は?

いくつかの研究では、研究がどのように実施されたか、医療従事者(臨床研究担当医師、臨床研究に関わった人)または参加者がどの治療を受けていたかを認識していたかどうか(研究が盲検化されていたかどうか)が明確に報告されておらず、結果の妥当性に影響を与えた(結果に潜在的な偏りが生じている)可能性がある。重篤な副作用など、いくつかの結果に関しては、少数の事象発生件数報告に基づくエビデンスである。

このレビューはいつのものか?
レビューは2024年3月28日時点のものである。

Cagnotto G, Bruschettini M, Stróżyk A, Scirè CA, Compagno M

子宮筋腫(子宮にできる良性の腫瘍)を摘出する手術の前に投与される薬の利点とリスクは?

1 month ago
主な結果

- ゴナドトロピン放出ホルモン類似物質(GnRHa)は、子宮筋腫を治す手術の前に、子宮そのものや子宮筋腫を小さくし、ヘモグロビン(赤血球中にある酸素を運ぶためのタンパク質)の濃度を高めることができるかもしれない薬である。GnRHaを手術の前に投与すると、手術にかかる時間、輸血の必要性、手術中あるいは手術後に起こりうる合併症の軽減も期待できる。

- 手術の前にGnRHaを投与される女性は、ホットフラッシュなどの好ましくない副作用がおこる可能性が高くなる。

- 今後も、さらなる研究が必要だ。

子宮筋腫とは?

子宮筋腫は、女性の子宮にできる平滑筋腫瘍(がんではない良性の腫瘍)で、それがあると妊娠しにくくなることがある。お腹が痛くなったり、生理のときに大量に出血したりする。子宮筋腫があると、流産で赤ちゃんを失う可能性が高くなる。

子宮筋腫の治療方法

子宮筋腫は手術によって治療されることが多い。いくつかの薬、特にゴナドトロピン放出ホルモン類似物質(GnRHa)は、子宮や筋腫を小さくして手術を容易にするかもしれない。しかし、骨量が減ってしまう可能性があるため、6ヵ月以上使用することはできない。同じような短期的効果をもたらす可能性のある他の薬物には、黄体ホルモン、ドパミンアゴニスト、選択的プロゲステロン受容体修飾薬(SPRMS)、エストロゲン受容体アンタゴニスト、選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERMS)などがある。しかし、これらの薬は高価な傾向がある。

知りたかったこと

手術の前にこれらの薬を投与するのが、以下の項目について役に立つどうかを調べたかった:

- 大量出血を抑える;

- 子宮や筋腫を小さくして、手術を容易にする;

- 手術にかかる時間、輸血回数、手術中の出血量、手術後の合併症の減少。

また、これらの薬で好ましくない作用を引き起こすものがあるかどうかも調べたかった。

実施したこと

子宮筋腫の手術をする前に投与される薬について、他の薬との比較、あるいはプラセボ(偽の治療)または無治療と比較した研究を探した。研究結果をまとめ、研究方法や規模などの要素に基づいて、エビデンスの信頼性を評価した。

わかったこと

何らかの症状の原因となっている子宮筋腫を摘出する手術を待っている、閉経前の女性3,982人を対象とした41件の研究が見つかった。女性の多くは貧血(赤血球やヘモグロビンの量が少なく、血液の酸素運搬能力に影響する)であった。手術は、子宮摘出術(子宮ごと取り出す)、子宮筋腫核出術(子宮壁から子宮筋腫だけを取り出す)、子宮鏡下子宮筋腫摘出術(子宮腔から子宮筋腫を取り出す)であった。

研究では、3種類の比較試験が行われた:GnRHa対無治療またはプラセボ、GnRHa対他の内科的治療、選択的プロゲステロン受容体修飾薬(SPRM)対プラセボの3種類である。

投与される薬を製造している企業の支援を受けている研究もあった。

主な結果GnRHaと無治療またはプラセボとの比較

ゴナドトロピン放出ホルモン修飾薬(GnRHa)は、手術前に子宮のや子宮筋腫を小さくする可能性がある。手術する前の出血に対する効果については、有益な情報はなかった。GnRHaは、おそらくヘモグロビン濃度を高くする。しかし、GnRHaを投与された女性は、ホットフラッシュを経験しやすい。

子宮摘出術

子宮摘出術にかかる時間は、手術の前にGnRHaを投与された女性の方が短いかもしれない。子宮摘出術を調べた研究では、他の評価項目、すなわち手術中の出血量、輸血、手術後の合併症に対する効果は非常に不確かである。

子宮筋腫核出術

子宮筋腫核出術を調べた研究の次の結果は、非常に不確かである:手術時間、手術中の出血量、輸血、手術後の合併症。

子宮鏡下子宮筋腫摘出術

子宮鏡下切除術の前にGnRHaを投与しても、手術にかかる時間はほとんど変わらないかもしれない。手術後の合併症を調べた研究が1件あったが、報告はなかった。子宮鏡下子宮筋腫摘出術では、手術中の出血量と輸血は調べられていなかった。

GnRHaと他の内科的治療との比較

手術前

GnRHaを手術前に投与すると、他の内科的治療と比べて、手術前の子宮を小さくする可能性がある。GnRHaを投与しても、手術中の出血量や子宮筋腫の大きさにほとんど差がないかもしれない。ヘモグロビン濃度にはおそらく影響しない。しかし、GnRHaは、穂っとフラッシュなどの好ましくない作用をもたらすかもしれない。

選択的プロゲステロン受容体修飾薬(SPRM)とプラセボとの比較(訳者注:2025年9月現在、日本ではSPRMは子宮筋腫の治療薬として承認されていない)

手術前

SPRM(ミフェプリストン、CDB-2914、酢酸ウリプリスタル、アソプリスニルなど)を手術前に投与すると、プラセボに比べて、子宮が小さくなり、ヘモグロビン濃度が高くなる。子宮筋腫が小さくなり、手術中の出血量が減るかもしれない。好ましくない作用に関する結果は、不正確であった。

エビデンスの限界

ほとんどの評価項目に関するエビデンスの信頼性は低いか、非常に低い。これは、研究報告が不十分だったことと、結果を評価する研究者が「盲検化」されていなかったことによる。「盲検化」されていないとは、評価項目を測定した人が、参加者がどの群に割り当てられているかを知っていることを意味し、そのことが結果に影響を与える可能性を否定できない。加えて、結果は研究によってばらつきがあり、1件の研究のみに基づいているものもあった。

本レビューの更新状況

このレビューは2017年に発表されたものを更新したもので、2024年8月までの最新版である。

Puscasiu L, Vollenhoven B, Nagels HE, Melinte I-M, Showell MG, Lethaby A

女性の尿漏れを治すには、どんなトレーニングが最も効果的か?

1 month ago
主な結果

- 尿漏れがある女性に対する骨盤底筋群(膀胱、腸、子宮を支える筋肉)トレーニングの手法には、他のものより優れているものもあれば、同じくらい優れているものもある。

- 多くの手法について確信が持てなかった。なぜなら、その手法を調べた研究が1件しかなかったり、いくつかの小規模な研究しかなかったりしたからである。

- 骨盤底筋群トレーニングのさまざまな手法を直接比べた、より多くの研究が必要である。特に、どんなトレーニングの量(たとえば、トレーニングの回数など)がよいかについて、調べる必要がある。

尿失禁とは何か

骨盤底筋群は、骨盤の前部にある恥骨から骨盤の後部にある尾骨までの間、股の部分にある。ハンモックのような構造で、膀胱、腸、子宮を支えている。骨盤底筋群が弱くなると、女性は排尿をコントロールできず、尿が漏れてしまうことがある。これを尿失禁という。尿失禁には、次の3つのタイプが多い。運動時におこる尿漏れ(腹圧性性尿失禁)、急に尿意を感じてがまんできずにおこる尿漏れ(切迫性尿失禁)、およびその両方(混合性尿失禁)である。このレビューでは、この3つのタイプすべてを取り上げる。尿失禁は、女性の生活の質に深刻な影響を与える。

骨盤底筋群トレーニングとは?

トレーニングによって骨盤底筋群の筋力、持久力、協調性を向上させれば、尿漏れを減らすことができる。トレーニングには、さまざまな手法、または同じ手法でも回数などの負荷量が異なるものが含まれる。トレーニングの教え方もさまざまである。たとえば、マンツーマンの指導、グループでの指導、あるいはインターネットや携帯電話、リーフレットでトレーニングの内容を伝えるなどがある。

知りたかったこと

以下の点について明らかにすることを試みた。

- どのトレーニングの手法が他の手法より優れているか;

- トレーニングの量は多い方が優れているか;

- より徹底した指導の方が優れているか。

実施したこと

トレーニングの手法どうしの比較、トレーニングの量の比較、指導の徹底度による比較をした研究を探した。レビューに含む研究は、尿失禁の女性を対象としたが、神経系に疾患のある女性や、妊娠中あるいは最近出産した女性は対象からはずした。

研究結果を比較・要約し、研究方法や研究規模などの要因に基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。最も関心があったのは、治療後の女性の生活の質であった。

わかったこと

4,920人の尿失禁がある女性を対象とした63件の研究が見つかった。最大の研究は362人の女性、最小の研究は11人の女性を対象としていた。これらの研究は世界各国で実施されていたが、そのほとんどは中所得国から高所得国(つまり、女性が適切な医療を受けられる国)のものであった。ほとんどの研究で、継続期間は3か月であった。3件の研究では、営利企業からの資金提供や金銭以外の支援があった。

主な結果

主な関心は、女性の生活の質であった。尿漏れの回数や量、および尿漏れが女性に与える影響や制限について、アンケートを用いて測定した。

1.トレーニングの種類

- 複合トレーニング(たとえば、骨盤底筋群を収縮させるのと同時にブリッジのポーズをとる)は、骨盤底筋群トレーニング単独よりもわずかに優れているかもしれない。

- 骨盤底筋群トレーニングは、間接的なトレーニング(骨盤底筋群の収縮を含まない運動)よりもよいかもしれない。

- 骨盤底筋群トレーニングと間接的なトレーニングを組み合わせても、骨盤底筋群トレーニング単独と比べてほとんど違いがないかもしれない。

2.トレーニングの量

- トレーニングの量については、意見を出すには十分なエビデンスがなかった。

3.指導の徹底度

- マンツーマンの指導とグループでの指導の違いは、おそらくほとんどないだろう。

- インターネットや携帯電話アプリなどの技術を活用した指導は、リーフレットよりも若干優れているかもしれない。

- その他のトレーニングの指導については、意見を出すには十分なエビデンスがなかった。

エビデンスの限界

マンツーマンの指導とグループでの指導では、ほとんど違いがない。一方、骨盤底筋群トレーニング単独と比べて、間接的なトレーニングと骨盤底筋群トレーニングを組み合わせてもほとんど差がないこと、骨盤底筋群トレーニングの指導をテクノロジーで行う方がリーフレットよりも若干優れていること、骨盤底筋群トレーニングの方が間接的なトレーニングよりも優れていることについては、あまり確信がない。

エビデンスに対する信頼性は、ほとんどが低いか、または非常に低い。今後の研究では、このレビューと異なる結果が出る可能性がある。

研究方法が十分に説明されていなかったり、関心のある評価項目についてデータを提供していない研究があったり、レビューに活用できる方法で報告されていなかったり、異なる研究間で結果に一貫性がなかったり、多くの研究が非常に小規模であったりしたため、エビデンスについて確信が持てなかった。

このエビデンスの更新状況

エビデンスは、2023年9月27日までのものである。

Hay-Smith EJC, Starzec-Proserpio M, Moller B, Aldabe D, Cacciari L, Pitangui ACR, Vesentini G, Woodley SJ, Dumoulin C, Frawley HC, Jorge CH, Morin M, Wallace SA, Weatherall M

多発性硬化症(MS)の人に対するナタリズマブ(NTZ)の利益とリスクは何か?

1 month ago
主要メッセージ
  • 2年間の治療後、ナタリズマブ(NTZ)はプラセボ(偽薬)と比較して、再発寛解型MSの再発頻度を減少させ、障害の進行を遅らせる。治療開始1年後、再発寛解型MSに対する利益と有害性において、ナタリズマブとバイオシミラー(バイオ後続品、品質・安全性・有効性が先行バイオ医薬品と同等・同質である医薬品)NTZの間にほとんど差がない可能性がある。

  • 二次性進行型MSがある人の場合、2年間の治療後、ナタリズマブは再発頻度を減少させる可能性があるが、障害の進行度にはほとんど影響しない可能性がある。

  • 多発性硬化症(MS)の人に対するナタリズマブの利益と有害性を評価するためには、より多くの非白人集団を対象とし、より長期間の研究が必要である。

多発性硬化症(MS)とは何か?

多発性硬化症は、若年層、白人に最も多く見られる中枢神経系の疾患である。主に脳と脊髄に影響が及び、身体や認知(思考)機能に関連するさまざまな障害を引き起こす。神経系の炎症と損傷は、徐々に運動機能、感覚、思考や感情など、すべての神経機能に影響を与える。多発性硬化症の最も一般的な病型は、再発寛解型MSであり、症状が悪化(再発)する期間と、症状が落ち着いている(寛解)期間を繰り返す。再発寛解型MSの人の中には、時間の経過とともに、二次性進行型MSに移行する人もいる。二次性進行型MSは、神経機能が時間とともに悪化し、障害が進行していく。

多発性硬化症(MS)はどのように治療されるのか?

現在のところ多発性硬化症を完治させる治療法がないため、 症状の管理、炎症の疾患活動性の低下、障害の進行を遅らせることを治療目標としている。これらの治療は、再発頻度を減らし、磁気共鳴画像(MRI)上で認める新たな病変(脳の損傷)の発生を抑制、または既存の病変が広がったりするのを抑え、障害の進行を遅らせることを目的とした疾患修飾薬(DMTs)と呼ばれる薬剤を用いて行われる。ナタリズマブは、再発寛解型MSの治療薬として承認されている疾患修飾薬である。

知りたかったこと

多発性硬化症がある⼈の病型を問わず、ナタリズマブのみ使用の場合、またはナタリズマブを他の治療薬と併用して使用した場合の利益と有害性を調べたかった。

本レビューでは、以下の評価項目に注目した:

  • 再発を経験した人の数;

  • 障害が悪化した人の数;

  • 重篤な有害事象を経験した人の数;

  • 生活の質(QOL)への影響;

  • MRI上で病変の活動性(脳損傷が新たに出現または既存の脳損傷の広がり)が認められた人の数;

  • 有害事象のために治療を中断(治療中止)した人の数。

実施したこと

多発性硬化症がある⼈の病型を問わず、ナタリズマブに関する研究を検索した。対象とした研究結果を分析および比較し、研究方法と規模に基づいて、エビデンスにどれだけの信頼性があるかを評価した。

わかったこと

合計3,255人を対象とした5件の研究を特定した。これらの研究は、主にヨーロッパと北米で、白人女性を対象に実施されていた。

再発寛解型MSの場合:

  • 2年にわたるフォローアップ時、ナタリズマブはプラセボと比較して:

    • 再発および障害のリスクを減らす;

    • 重篤な有害事象のリスクをわずかに軽減させる可能性がある;

    • 生活の質(QOL)にごくわずかな改善をもたらすかもしれない;

    • MRI上で認める病変の活動性を低下させる;

    • 有害事象による治療中止には、おそらくほとんど影響を与えない可能性がある。

  • 1年にわたるフォローアップ時、ナタリズマブはバイオシミラーNTZ(ナタリズマブとほぼ同じ薬)と比較して:

    • 利益と有害性にはほとんど影響を与えないかもしれない。

二次性進行型MSの場合:

  • 2年にわたるフォローアップ時、ナタリズマブはプラセボと比較して:

    • 再発率を低下させる可能性がある;

    • 障害の進行、重篤な有害事象、または有害事象による治療中止にほとんど影響を与えないかもしれない;

    • 生活の質(QOL)の改善には、おそらくほとんど影響を与えない可能性がある。

エビデンスの限界は何か?

エビデンスに対する信頼性は、非常に低いものから高いものまでさまざまであった。信頼性が限定的であった場合では、対象とした研究の規模が小さかったことが主な理由であった。また、製薬会社側の経済的な利益が、研究結果の報告に影響を与えた(結果が公平に報告されていない)可能性があることも懸念される。さらに、研究期間は比較的短く、最長24ヵ月間であった。

このエビデンスはどれくらい最新のものか?

エビデンスは2024年2月時点のものである。

Liu C, Cai Z, Zhao L, Zhou M, Zhang L

一般人に対し応急手当トレーニングを行うことは効果的か?

1 month ago
要点
  • 一般人(正式な医療教育を受けていない人々)に対する応急手当トレーニングは、応急手当を受けた人の健康アウトカム、提供された応急手当の質、または応急手当を提供する人の援助行動(他者への応急手当の実施を含む)を改善するかどうかについて、現時点では不明である。

  • 一般人に対する応急手当トレーニングは、短期的(トレーニング後1か月以内)には、応急手当に関する知識、技能、および自己効力感(応急手当を提供できるという自信)を向上させる可能性があるが、短期的な援助意欲への効果については不明である。

  • 今後の研究では、施策決定者にとって重要な以下の項目に焦点を当てるべきである。

    • 応急手当に関する知識、技能、および態度を評価するためのアンケートやその他の測定方法の標準化

    • 費用や潜在的な有害事象を含めた、長期的なトレーニング効果の検証

    • 低所得国および下位中所得国における応急手当トレーニングの影響の解明

応急手当トレーニングとは何か?

応急手当とは、病気やけがをした人に対して基本的な手当を行うことであり、応急手当トレーニングとは、応急手当を行うことに関する知識、技能、および態度を向上させるための目標を定めた学習活動(講習やプログラムなど)のことである。

知りたかったこと

一般人(正式な医療教育を受けていない人々)に対する応急手当トレーニングが、他の種類のトレーニングやトレーニングを行わなかった場合と比較して、以下の項目の改善に有効かどうかを明らかにしたいと考えた。

  • 応急手当を受けた人の健康状態

  • 応急手当の質

  • 実際の緊急時における応急手当を行う人の行動(援助行動)

  • 応急手当に関する知識、技能、自己効力感、および援助意欲

また、応急手当トレーニングの費用や、有害事象の有無についても調査することを試みた。

何を行ったのか?

一般人を対象とした応急手当トレーニングについて、他の種類のトレーニング(メンタルヘルスへの応急手当やHIVの予防など)を行った場合、またはトレーニングを行わなかった場合と比較した研究について検索した。得られた研究結果を統合し、研究方法や研究規模などの要因に基づいてエビデンスの信頼性を評価した。

何がわかったのか?

合計15,657人の医療教育を受けていない参加者を対象とした36件の研究が見つかった。成人を対象としたものが17件、小児や未成年を対象としたものが19件であった。研究は世界各国で実施されており、大半は高所得国と中所得国(半数は米国)であったが、低所得国ではナイジェリアの2件のみであった。

応急手当のトレーニングが、実際の緊急時において応急手当を受けた人の健康アウトカムや、応急手当の質に与える影響についてエビデンスを示した研究はなかった。また、3,070人の参加者を対象とした1件の研究では、援助行動について調査を行っていたが、応急手当のトレーニングによって影響を受けたかどうかを判断するのに十分なデータは示されていなかった。

他の種類のトレーニングを行った場合やトレーニングを受けなかった場合と比較すると、短期的(トレーニング後1か月以内)には、以下の項目を向上させる可能性がある。

  • 知識(合計3,515人の参加者を対象とした8件の研究より)

  • 技能(合計3,063人の参加者を対象とした12件の研究より)

  • 自己効力感(合計285人の参加者を対象とした2件の研究より)

しかし、短期的な援助意欲に対する効果については不明である(合計1,083人の参加者を対象とした2件の研究より)。

エビデンスの限界は何か?

援助行動の向上に関しては、エビデンスが1件のみであり、また実際に応急手当を行う機会が限られていたため確信性は低いが、短期的な知識、技能、および自己効力感の向上については中等度の確信性が認められた。しかし、参加者を無作為に割り付けたかどうかについての報告がすべての研究において明確であったわけではなく、参加者が自らのトレーニングについて識別していた可能性があり、加えて測定ツールの妥当性に関する情報も不足していた。援助意欲の向上に関するエビデンスについては確信性が低い。参加者がトレーニング後に援助意欲が高まったと回答することが「正解」であると考えた可能性もあるが、この結果を確認するために十分な研究はなかった。

本エビデンスはいつのものか?

2024年12月時点におけるエビデンスである。

Kendall I, Laermans J, D'aes T, Borra V, McCaul M, Aertgeerts B, De Buck E

介護施設に住む高齢者の転倒を減らすために考案された介入策は、どの程度効果的なのか?

1 month ago
主な結果
  • 介護施設での転倒は、施設スタッフの協力を得て、入所者の個々の状況(認知症患者など)に応じて実施される複数の因子からなる介入、運動、ビタミンDの補給によって減少すると考えられる。転倒者数は、栄養士による献立作成支援を通じて乳製品の量を増やすこと、認知障害のある入居者を運動させることによって減少する可能性がある。投薬の適切性を高めることを目的とした単独介入によって転倒が減少するかどうかは不明である。

  • 多因子介入と運動介入が費用対効果に優れている可能性がある。しかし、運動を継続しなければ、転倒に対する効果は持続しない。管理栄養士による献立作成支援を通じて乳製品の摂取量を増やすことで、転倒による骨折者数を減らすことができるかもしれない。

  • 現在、介護施設での転倒を予防する方法に関する情報は更新されている。利用可能なエビデンスについては、概ね中等度から低い信頼度しか持てない。介護施設に住む人々の転倒を予防する方法、特に最も効果的な運動の種類や、服薬を改善するための介入策については、さらなる研究が必要である。

転倒の評価に使用された介入をどのように報告するのか、なぜそれが重要なのか?

老人ホームなどの介護施設における高齢者の転倒はよくあることで、自立性の喪失、怪我、時には怪我による死亡を引き起こすこともある。このため、転倒防止のための効果的な介入は重要である。

高齢者の転倒を減少させるためにデザインされた介入を、介入を受けていない群 と比較した研究は、欧州転倒予防ネットワーク(ProFaNE)が開発した転倒予防分類システムを参考に、タイプ別に分類している。介入は以下のように構成されている:

  • 多因子介入:参加者個人の転倒の危険因子に基づいて、運動、投薬の見直し、ビタミンDの補充など、2種類以上のカテゴリーの介入を行う;

  • 単一介入:主要なカテゴリーの介入のうち1種類だけが、グループの参加者全員に行われる;

  • 複数介入:同じ組み合わせの介入が、グループの参加者全員に行われる。

知りたかったこと

介護施設に住む高齢者の転倒を減少させる介入策を、転倒者数と転倒の回数の観点から調べたいと考えた。また、骨折のリスク、介入による好ましくない影響、経済的アウトカムについても検討した。

実施したこと

介護施設に住む高齢者の転倒を減らすための介入に関する研究を検索した。研究結果を比較して要約し、研究方法や規模などの要素から、エビデンスの確実性を評価した。

わかったこと

104件の研究(68,964人の高齢者)が見つかり、平均年齢は84歳で、そのうち72%が女性であった。研究は25か国で行われ、多因子介入、単一介入(運動、薬物療法の最適化、ビタミンDの補充、栄養士のアドバイスと乳製品の補給を増やすための献立作成、支援技術(高齢者の機能を助ける道具)、スタッフのトレーニング、ケアの提供方法の違い)、複数介入について検討された。

  • 全体として、多因子介入はおそらく転倒率(ある一定期間における転倒回数)を下げることはないが、おそらく転倒者数を減少させる。しかし、施設スタッフの助けを借り、入所者の個々の状況(認知症患者など)に基づいて実施された多因子介入は、より大きな効果があり、おそらく転倒率と転倒者数を減少させた。多因子介入は、転倒を減らすうえで費用対効果も高い可能性がある。

  • 単一介入としての積極的運動は、おそらく転倒率と転倒者数を減少させるが、骨折リスクにはほとんど影響しない可能性がある。しかし、運動を継続しなければ、転倒率に対する効果は持続せず、転倒者数に対する効果もおそらくない。また、積極的な運動介入は、認知機能障害(精神的能力の低下)のある参加者の転倒者数を減少させる可能性があり、転倒を減少させるために費用対効果が高い可能性がある(オーストラリアの医療サービスの観点から見た場合)。 

  • 全体として、薬剤処方の改善を目的とした介入はさまざまであり、転倒率にはほとんど差がないか、おそらく転倒者数にもほとんど差がないであろう。アセスメントを実施し、推奨を行うことで、入居者が服用する薬剤の適切性を改善することを目的とした単一介入の効果については不明である。薬剤処方を改善するためのこのような単一介入は、単一介入としては費用対効果が低いかもしれない。

  • ビタミンDの処方(カルシウムの有無にかかわらず)はおそらく転倒率を減少させるが、転倒者数にはほとんど差がない。これらの研究に参加した住民のビタミンDレベルは低かったようだ。

  • 管理栄養士による献立作成の支援を通じて、入所者への乳製品の提供を増やすことで、転倒者数を減らし、転倒による骨折のリスクを減らすことができるかもしれない。転倒率については報告されていない。

  • 介入による好ましくない影響については、対象となった研究では全体的に報告が不十分であったため、不明である。

エビデンスの限界

入手可能なエビデンスに対する信頼性は、ほとんど「中等度」から「ほとんどない」の範囲にあった。多くの研究では、人々は自分がどの治療を受けているかを認識しており、また、すべての研究が関心のあるすべての事柄について情報を提供しているわけではないので、信頼性は限定的であった。また、多くの研究において情報収集の方法にも問題があった。

このレビューの更新状況

このレビューは、2010年、2012年、2018年に発表された旧バージョンを更新したものである。2024年5月10日時点におけるエビデンスである。

Dyer SM, Kwok WS, Suen J, Dawson R, Kneale D, Sutcliffe K, Seppala LJ, Hill KD, Kerse N, Murray GR, van der Velde N, Sherrington C, Cameron ID
Checked
6 hours 6 minutes ago
Subscribe to Latest Japanese Reviews feed