新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を検出するための抗体検査の精度を評価する新しいコクランレビュー
本日(6/26)、健康に関する意思決定に役立つ研究のエビデンスを論評する、世界的な独立機関であるコクランは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抗体検査の精度を調べた研究のレビューを発表しました。
このレビューでは、抗体検査がCOVID-19に罹患したことがあるかどうかを検出するのに有用である可能性があるが、抗体検査をするタイミングが重要であることが示されています。症状が始まってから2週間以上経過した場合では、COVID-19を検出するには抗体検査の方が優れていました。しかし、症状が始まってから5週間以上経過した場合に、どの程度抗体検査で検出可能なのかは分かりません。レビューの対象とした研究は、主に入院中の患者が対象のため、軽症の人や症状のない人には同様の結果が当てはまるかどうかは分かりません。COVID-19の既往があることが、今後COVID-19に罹患しないという終生免疫を個人にもらたすのかどうかは、いずれ明らかとなるでしょう。
抗体検査は、COVID-19既往のある個人を特定するためには、重要な公衆衛生の手段です。抗体検査を行うことにより、感染拡大の状況と公衆衛生上の介入の必要性を評価することができます。 本レビューでは、2020年4月末までに入手可能な研究エビデンスをまとめ、以下について要約します。
- 抗体検査は、COVID-19の症状がある人もない人も含めて、病気を診断するのに十分な精度があるかどうか
-抗体検査は、既にCOVID-19に罹患したのかどうかを同定することに使用可能かどうか
COVID-19に罹患している人の免疫システムは、血液中のウイルスを攻撃するタンパク質(抗体)を発達させることで対応します。血液中の抗体を検出することで、現在COVID-19に感染しているか、以前に感染したことがあるかを知ることができます。 現在の感染の検出は通常、発病後5日以内にスワブ(綿棒)を用いた(PCR)検査で行われますが、感染を見逃す可能性があり、すべての人が利用できるわけではありません。
バーミンガム大学の専門家を中心とした世界中の大学のコクランの研究者が、4月末に公開されたCOVID-19に関する11,000件の論文を検索し、COVID-19に罹患している(または既往)ことが知られている人と罹患していないことが知られている集団の抗体検査の結果を報告している研究を特定しました。その結果、約16,000件の検査結果を報告している54件の抗体検査関連の研究が見つかりました。研究の大部分は中国の研究で、入院経験があり、重症化している可能性が高い人を対象に実施されていました。
それらの研究はには、IgA、IgG、IgMの3種類を対象としていました。ほとんどの検査はIgGとIgMの両方を測定していましたが、中には1つの抗体を測定したものや、3つの抗体の組み合わせを測定したものもありました。
データが得られたのは27種類の検査のみで、市場に出回っている200種類以上の検査のうちのごく一部です。データは、静脈から採取した血液サンプルを必要とする検査室で実施する検査と、指先から採取した血液サンプルを使用するポイント・オブ・ケア検査の両方で利用可能でした。
異なる検査の精度を比較するのに十分なデータはありませんでした。
著者らは今後数ヵ月間、このレビューを更新し、研究エビデンスが蓄積されていくにつれて、より完全な要約を提供していく予定です。
研究者らは、抗体検査の感度(検査で検出できるCOVID-19に罹患したことのある人の割合)は、検査の実施時期と非常に密接に関係していることを発見しました。
症状発症後8〜14日目のIgG抗体とIgM抗体の検査では、COVID-19に罹患している人の70%しか正しく識別できていませんでした。しかし、症状が始まってから15日から35日後のデータを調べたところ、抗体検査では90%以上のCOVID-19患者が正確に検出されていました。症状が始まってから35日後以降の抗体検査の感度を推定する研究は十分にありませんでした。 COVID-19に罹患していない人の検査では、たった1~2%しかCOVID-19に感染した、と誤診していませんでした。
これらの精度の数値がどのようなことを意味するのかを説明するために、COVID-19の患者が治療されたことのある病院で働く人の典型的な例として、200人(20%)がCOVID-19に実際に罹患している1000人の集団で考えてみましょう。
- 193人が陽性の検査結果を受けるが、そのうち10人(5%)はCOVID-19に罹患していない(偽陽性)
- 807人が陰性であったが、そのうち17人(2%)がCOVID-19に罹患している(偽陰性)
COVID-19に罹患している人の割合がより多い集団では、偽陰性がより多く、偽陽性がより少なくなる
2週間以上COVID-19の症状があったにもかかわらず、綿棒(PCR)検査を受けたことのない患者や、COVID-19に似た症状があるにもかかわらず陰性であった患者では、抗体検査がCOVID-19の診断に役割を果たす可能性があることが研究で示されました。
検査評価の研究グループの責任者であるバーミンガム大学の生物統計学のジョン・ディークス教授は次のように説明しています。「私たちは世界中の利用可能なすべてのデータを分析し、これらの検査を使用する際には検査をするタイミングが重要であることを示す明確なパターンを発見しました。検査するタイミングを間違えると検査は意味をなしません。これらの初期のCOVID-19の抗体検査は、特に症状発症から2~3週間後に使用された場合での利用可能性を示していますが、ほとんどが入院患者から得られたデータであるため、症状が軽度の人や症状のない人、症状が始まってから5週間以上経過した人のCOVID-19をどの程度正確に識別しているのかまだ十分にわかっていません。」
著者らはまた、特定した研究の質についてもいくつかの懸念を抱いています。研究の規模が小さく、結果が十分に報告されていませんでした。多くの論文には、同じ患者から採取された複数のサンプルが含まれていました。半数以上の研究は、ピアレビューを経る前に公開されています(「プレプリント」と呼ばれる出版物)。英国の1件の重要な研究では、バイオマーカー製造業者は評価された検査の同定を承認していませんでした。
バーミンガム大学のチームと共にレビューに取り組んだジャック・ディネス博士はコメントしている。
"COVID-19検査の精度に関する研究の設計、実施、報告にはかなりの改善が必要です。
研究では、症状発症からの時間別にデータを報告しなければなりません。選択的な報告を防ぐためには、検査評価のすべての結果が公開されるようにする必要があります。この分野は動きの速い分野であり、より多くの研究が発表された際には、このレビューを定期的に更新する予定です」
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コクランのCOVID-19への対応についてはこちらをご覧ください: https://www.cochrane.org/coronavirus-covid-19-cochrane-resources-and-news
Cochrane Database of Systematic Reviews:
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD013652/full/ja
Antibody tests for identification of current and past infection with SARS‐CoV‐2
このプレスリリースについてのインタビューや詳細についての連絡先:
Katie Abbotts
External Communications and Media Officer, Cochrane
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